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11/03/2022
安価で軽量、そして丈夫な材質であるプラスチックは、包装材や容器など多種多様に加工され、私たちの暮らしを快適で便利なものにしています。ところが、日常生活から視野を広げて地球環境といった観点から眺めれば、このようなプラスチックの利点は、おしなべて大きな欠点となります。軽くて丈夫なプラスチックは腐食分解せず、細かく砕けて川から海へと流れ出ていきます。こうしたプラスチックごみが、大きな海洋環境問題として私たちの世界に重くのしかかっています。本連載では6回にわたり、海洋プラスチック汚染の基礎知識を解説します。
安価ゆえに大量に消費され、そして安易に破棄されるプラスチック。今、世界中で年間約3,000万トンが適正に処理されずに捨てられ(参考:Jambeck, J. R. et al., Science, 347, 768–771, 2015)、このうち200万トン前後が海に流出すると試算されています(参考:Lebreton, L. et al., Nature Communications, 8:15611, 2017)。漁業ごみなど海に直接捨てられるプラスチックごみは、海洋ごみ(漂流ごみや漂着ごみ)全体の約20%程度(個数比)とされ、残り80%は街中で不用意に捨てられたプラスチックごみが、川を介して海に流れ出ていったものです(参考:Morales-Caselles, C. et al. Nature Sustainability, 2021)。ひとたび軽いプラスチックが海に流出すれば、海流や風に乗って容易に世界中に散らばっていくでしょう。また、丈夫で腐食分解しないプラスチックは、細かく砕けることはあっても地球から消えて無くなることがありません。
日本の廃棄プラスチックの現状を見ると、その99%は環境中に漏れることなく適性に処理されています。ただ、……
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ほぼ腐食分解しないプラスチックごみは、海岸に漂着することで景観を損ねてしまいます(図1)。それだけではなく、海洋生物への絡まりや誤食といった影響(次回解説)が、1970年代ごろから現在まで、数多く報告されてきました。
図1:海岸漂着プラスチックごみ(撮影場所:石垣島)また最近では、プラスチックごみが破砕してできる、マイクロプラスチック(図2)という言葉を聞く機会が増えたのではないでしょうか。
図2:日本海で採取されたマイクロプラスチック海岸に漂着したプラスチックごみを半年ほど放置しておけば、紫外線などによる劣化が進行します。劣化したプラスチックごみは波にもまれ、また砂との摩擦などの刺激が加わることで、次第に細かく砕けていきます。破砕や劣化は砕けたプラスチック片でも進行し、さらに細かな小片へと変化していくことでしょう。このように、……
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ところで、このマイクロプラスチックは、最後にどうなってしまうのでしょう。実のところ、このプラスチックの行方は、海洋プラスチック汚染に関わる研究者の大きな関心事となっています。劣化と破砕を繰り返すことで、マイクロプラスチックは細かくなり続け、それでも海を漂い続ける。これが、想定される最悪のシナリオです。小さくなればなるほど多様な生物に誤食され、そして体内の組織を通り抜けて損傷を与えるかもしれないからです(次回解説)。
一方で、海を漂うプラスチック片には、次第に藻類やバクテリアが付着していきます。プランクトンのかたまりに巻き込まれることもあります。こうして、本来は海水より軽い素材のプラスチック片も重くなり、やがては海底に沈んでいきます。これは、……
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前回は、海洋プラスチック汚染とは何なのか、その発生源や新たな問題となっているマイクロプラスチックについて解説しました。今回は、海洋プラスチックごみが環境や海洋生物、人体に与える影響を説明します。
前回述べたとおり、ほぼ腐食分解しないプラスチックごみは、海岸に漂着することで景観を損ねてしまいます。現在、日本の海岸では10万トン規模の漂着ごみが散乱しており、景勝地や海水浴場の観光価値を維持するための海岸清掃事業に、毎年30億円程度の予算が費やされています(参考:磯辺篤彦、海洋プラスチック問題の真実–マイクロプラスチックの実態と未来予測、DOJIN選書86化学同人、2020)。しかし、海洋プラスチックごみの影響は景観を損ねるだけにはとどまりません。まず、海洋生物への影響として、絡まりと誤食が挙げられます。腐食分解しないプラスチックごみが、ひとたび海洋生物に絡まってしまえば、劣化して砕けるまで体から離れることがありません。インターネットで「海洋プラスチックごみ」と画像検索をかければ、ロープやビニール袋に絡まったウミガメなどの写真がヒットします。あるいは、海に投棄され海底に沈んだ化学繊維の漁網が海洋生物を捉え、死に至らしめるゴースト・フィッシングの事例も多く報告されています(図1)。
図1:放棄されサンゴに絡まった漁網また、ある種の海鳥は、プラスチック片を好んで食べてしまうようです。理由は、色か匂いか判然としないままとなっています。現在では、世界の海鳥のうち59%の種類で、……
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小さなマイクロプラスチックは砂に紛れて人目に付きづらく、それが海岸に散乱しても観光価値を損なうことはないでしょう(図2)。ただ、その小さいということは別の問題を呼んでしまいます。大きなプラスチックごみを誤食できる生物は限られています。しかし、小さなマイクロプラスチックであれば、プランクトン(参考:Frias, J. P. G. L. et al. Marine Environmental Research, 95, 89–95, 2014)からクジラ(参考:Lusher, A. L., G. et al., Environmental Pollution, 199, 185–191, 2015)まで、さまざまな海洋生物が誤食することになります。実際に、世界の海からマイクロプラスチックの誤食例が続々と報告されています。要するに、プラスチックのみならずマイクロプラスチックも、既に海洋生態系に深く入り込んでしまっているということです。
図2:海岸に漂着したマイクロプラスチック先に述べたとおり、海を漂流するマイクロプラスチックの表面には、周囲の海水に広がっている汚染物質が吸着します。汚染物質は、誤食したマイクロプラスチックとともに海洋生物の体内に運び込まれ、死亡率の上昇を含むさまざまな障害の要因となるといわれています(参考:de Sá, L. C. et al., Science of the Total Environment, 645, 1029–1039, 2018)。誤食したプラスチック片から体内へ溶け出していく添加剤も、……
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私たち人間が日常で口にする食物や飲料、あるいは吸い込む空気から、体内に取り込まれるマイクロプラスチックの量はどの程度でしょうか。2021年には、この問題に取り組んだ2編の論文が相次いで発表されました。定量的な議論は、これらの発表以前にはなかったのではないでしょうか。1つは、オーストラリアとシンガポールの研究者が発表したもので、人は1週間に0.1~5gのマイクロプラスチックを取り込んでいるというものです(参考:Senathirajah, K. et al., Journal of Hazardous Materials, 404, 124004, 2021)。もう1つの、オランダの研究者チームの論文によれば、……
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前回は、海洋プラスチックごみが環境や海洋生物、人体に与える影響について解説しました。今回は、現在世界の海や川で行われている海洋プラスチックごみの調査、およびその最前線の様子を紹介します。
海洋プラスチックごみは、漁業をはじめとする要因で海洋に投棄されたものを含みます。しかし、第1回で述べたように、それは全体の20%程度に過ぎません。集計によっては、この割合はさらに低く示しているものもあります(参考:Morales-Caselles, C. et al. Nature Sustainability, 2021, )。中には、釣り客や行楽客が海岸で不用意に捨てたプラスチックごみもあるでしょう。しかし、日本で過去5年間に調査された海岸漂着ごみの多様性は、海岸利用だけで説明するのは不合理的です(図1)。
図1:品目別の漂着ごみ個数(参考:磯辺篤彦、海洋プラスチック問題の真実–マイクロプラスチックの実態と未来予測、DOJIN選書86、化学同人、2020より作図)海洋プラスチックごみの多様さは、これらの発生源が私たちの日常であることを示唆しています。特に、捨てる前提で使われるシングル・ユース(使い捨て)プラスチックは、処理が個人に委ねられており管理が難しいものです。そのため、回収経路からの1~2%程度の漏れは避けがたいようです(参考:磯辺篤彦、海洋プラスチック問題の真実–マイクロプラスチックの実態と未来予測、DOJIN選書86、化学同人、2020)。実際に、図1にあるとおり、ほとんどの海岸漂着ごみは使い捨てプラスチック(あるいはその破片)であることが分かります。
最近になって、世界の川や海岸、そして海面から深海に至るまでに発見された1,200万件に及ぶ海洋ごみ(プラスチック以外も含む)の調査結果が発表されています(参考:Morales-Caselles, C. et al. Nature Sustainability, 2021)。この論文によれば、これまで最も多く見つかった海洋ごみは、……
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上記の海洋プラスチックごみの調査は、海岸でも海洋でも、基本的には目視で行われてきました。海岸調査では、汀線(ていせん)方向に測った、長さ100m程度の区域に散乱するプラスチックごみの数や重量を計量します。実際に日中に船上からの目視観察で、海面に浮かぶプラスチックごみの数を記録していきます。センサで物理量を計測するわけではないため、調査したごみの現存量(漂着量や漂流量)についても高い精度は期待できそうにありません。目視観測では精度に限界があります。あるいは、特定の海岸や海域で現存量を測る場合など、データ数を集めるために相当の年数が必要でしょう。とはいえ、上述の1,200万件ものデータを集めた調査などは、数の威力もあって、それなりに信頼性の高い結果が得られています。
この結果に満足することなく、筆者ら研究者は、より精度の高い観測データを得るために、知恵を絞り研究を重ねてきました。そして、今度は長期間にわたるウェブカメラ(ライブカメラ)による観測を行うことにしました(図3)。まず、海岸にウェブカメラを設置して連続撮影を行い、海洋プラスチックごみの漂着量を計測します(参考:Kako, S. et al., Marine Pollution Bulletin, 60, 775–779, 2010)。多くの漂着ごみが映るよう、カメラの角度を調整しつつ、毎時の写真を1年半にわたって自動撮影をし続けます。画像データは、インターネットで研究室まで転送させ、自動撮影や転送に必要な電源は、太陽電池パネルを取り付けて確保します。そして、画像処理で派手な色のプラスチックごみを抽出し、海岸を覆う面積を計算して、毎時の面積を漂着ごみ現存量の指標として記録します。
図3:石垣島の海岸に設置した漂着ごみ観測のためのウェブカメラウェブカメラを用いた海岸漂着ごみの毎時計測によって、……
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前回は、世界の海や川で行われている海洋プラスチックごみの調査について、そして、その最前線の様子を解説しました。今回は、引き続き海洋プラスチックごみ、特にマイクロプラスチックの現状と50年後の予測について取り上げます。
私たちは、2014年から環境省の助成を得て、海鷹丸と神鷹丸(ともに東京海洋大学の練習船)の2隻を運用する体制で、日本沖合のマイクロプラスチック浮遊量調査を実施してきました。2017年からは、この沖合調査に北海道大学、長崎大学、そして鹿児島大学も参加し、調査船5隻体制に拡大されています。これほどの規模で組織立って継続している観測は世界にも例がなく、日本は海洋プラスチック汚染研究では疑いなく先端的といえるでしょう。これらの調査結果は、環境省のウェブサイトで公開され、学術論文の基礎資料として利用されています(参考:Isobe, A. K. Uchida, T. Tokai, and S. Iwasaki, Marine Pollution Bulletin,101, 618-623, 2015)。
さらに、私たちは世界で初めて南極海での浮遊マイクロプラスチック調査を成功させました(参考:Isobe, A. K. Uchiyama-Matsumoto, K. Uchida, and T. Tokai: Marine Pollution Bulletin, 114, 623-626, 2017)。また、南極海から東京に至る太平洋縦断調査も行っています(参考:Isobe. A. et al., Nature Communications, 10, 417, 2019)。
マイクロプラスチック採集の方法は、海洋学で伝統的な動物プランクトンや稚仔魚のネット採集を踏襲しています。この採集法では、目合い0.3mm程度の網を海面近くに沈め、船で横方向に曳きつつ、網を通過した海水に含まれる浮遊物をこし取っていきます(図1)。浮遊するマイクロプラスチックは、ほとんどが海水より軽いポリエチレンやポリプロピレンであるため、海面近くに浮遊すると考えられています。もちろん、網の目合いを0.3mmよりも細かくすれば、もっと小さなサイズのマイクロプラスチックが採取できます。しかし、その後の分析工程にも限界があり、この程度の大きさが採取・計測できるマイクロプラスチックの下限です。
図1:船舶によるマイクロプラスチックの曳網調査(東京海洋大学、海鷹丸による南太平洋での調査風景)このような浮遊マイクロプラスチックの採取や分析の方法は、英語のガイドラインにまとめられ、環境省のウェブサイトで公開されています(参考:Michida, Y. et al., 環境省、Guidelines for Harmonizing Ocean Surface Microplastic Monitoring Methods 、2020)。
このガイドラインに則って採取された世界の海のマイクロプラスチック濃度は、……
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これまでの調査結果によって、日本近海の東アジア海域は、浮遊マイクロプラスチックが特に多い「ホット・スポット」であることが分かってきました。海面近くの海水1m3当たりに浮遊する個数は3.7個を数え、この値は他の海域と比べて一桁多いものです。海表面1km2当たりの浮遊個数に換算しても、世界の海洋における平均値の27倍です(参考:Isobe, A. K. Uchida, T. Tokai, and S. Iwasaki, Marine Pollution Bulletin,101, 618-623, 2015)。
また、生活圏から最も遠い南極海ですら、マイクロプラスチックの浮遊が確認されました(参考:Isobe, A. K. Uchiyama-Matsumoto, K. Uchida, and T. Tokai:Marine Pollution Bulletin, 114, 623-626, 2017)。既に、世界でプラスチック片が浮遊しない海など存在しないのでしょう。先に述べたデータベースから作成した、世界の海に浮遊する8月 のマイクロプラスチックの濃度分布を見ると、東アジア周辺のみならず、太平洋や大西洋の中央、あるいはインド洋や北極海であろうと、高濃度で浮遊するマイクロプラスチックが確認できます(図2)。
図2:世界の海における8月の単位海水体積当たりのマイクロプラスチック浮遊重量(白抜きは未観測海域)(引用:Isobe, A. et al., Microplastics & Nanoplastics, 1, 16, 2021)プラスチックが世界に広く出回ってから、現在までに……
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私たちは、コンピュータ・シミュレーションによって、50年後までの太平洋全域におけるマイクロプラスチック浮遊量を予測しました(参考:Isobe, A. et al., Nature Communications, 10, 417, 2019)。別のシミュレーションで太平洋から海流と波の数値を割り出し、ここにマイクロプラスチックに見立てた仮想粒子を流し検証します。その結果、廃棄プラスチックの海洋流出がこのまま続けば、日本近海や北太平洋中央部の広い範囲で、2060年までに海水中の浮遊マイクロプラスチックの重量濃度が1g/m3を超えることが分かりました(図3)。実のところ、最近発表された多くの室内実験によれば、この程度の量のマイクロプラスチックが浮かぶ海域では、生物がマイクロプラスチックを誤食する機会が増え、体長低下などさまざまな影響が出始めるようです(参考:Isobe, A. et al., Nature Communications, 10, 417, 2019)。
図3:太平洋における8月の単位海水体積当たりのマイクロプラスチック浮遊重量、シミュレーションによる2066年の予測(引用:Isobe, A .et al., Nature Communications, 10, 417, 2019)ただし、観測やシミュレーションの対象となったプラスチック片が0.3mm以上であるのに対し、……
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