Boseの「QuietComfort 45」に革命は起こせない。でも、そこがいいのかも

Boseの「QuietComfort 45」に革命は起こせない。でも、そこがいいのかも

言わずと知れたキング・オブ・ノイキャンヘッドホンが、控えめに進化。

Bose(ボーズ)の「QuietComfort 35」と「QuietComfort 35II」は、アメリカで一番売れているノイズキャンセリングヘッドホンです。飛行機の中を見渡せば必ずと言っていいほどBoseユーザーを見かけますが、その人気の理由はやはり装着感のよさ、そして周囲のノイズを遮断するパワフルなノイキャン機能でしょう。

なので、Boseの最新作「QuietComfort 45」が現行モデルのQC 35とさほど変わっていないのはいいことなんです。

その反面、ワイヤレスヘッドホンに何を求めているかによっては悪いことでもあります。今回のモデルチェンジは主にQC 35の機能をアップデートするためのものであって、決してQC 35を根底から覆すような革新はありません。したがって、QC 35のクセをそのまま継承していますし、シンプルさをなによりも重視しています。

数週間使ってみた感想は「QC 45、いいじゃん!」。ただし、ここさえ改善されていればもっとよかったのになっていう残念なところもいくつかあって、ちょっともったいないと感じました。

見慣れたルックス

Bose QuietComfort 45はQuietComfort 35と見た目がほとんど変わっていません。ぱっと見、ソニーのWH-1000XM4にもよく似ています。デザインの大きな変更点は、イヤーカップクッションにひだが寄っていないこと。クッションが滑らかになり、物理ボタンがちょっとだけ小さくなったおかげで、全体的にはQC 45のほうがスリムになっています。Bose NC 700と違い、QC 45は折りたためるので持ち運びにも便利です。

イヤーカップ以外に大きく変わった点は、チャージングケーブルがUSB-C端子に変わったこと。やったね! と喜ぶのもつかの間、残念ながらUSB-Cでつないで音楽を楽しめる仕様にはなっておりません。有線接続はいまだにヘッドホンジャックを介さなければいけないめんどくささ…。

Bose Quiet Comfort 45

これはなに? :Boseのアイコニックなノイズキャンセリングヘッドホンの最新版。

お値段:330ドル。国内販売価格は3万9,600円(税込)。

好きなところ:快適な装着感。USB-Cケーブルでチャージできる! 素晴らしい音(Bose好みであれば)。バッテリーライフはさらに長く、最長で24時間連続再生が可能。非の打ちどころのないノイズキャンセリングモードに加えて、音楽と周囲の音を同時に聞ける「Awareモード」を新たに搭載。

好きじゃないところ:イコライザ機能がない。複数のデバイスに同時につないでいると干渉してしまうことがある。

ボタン操作も基本的に変わっていません。あいかわらず右側には音量ボタン、マルチファンクションボタン(音楽再生や通話機能など)、そして電源ボタンがついています。左側にはQuietモード(ノイキャンモード)とAwareモードを切り替えるボタンがついています。

QC 45は王道と呼ばれるのにふさわしいノイキャンヘッドホンです。着け心地がいいし、軽い。頭にピッタリとおさまる装着感ながらに耳が痛くなるほどキツくありませんし、長時間使用も問題ありません。これまでのデザインがすでによかったからこそ、Boseはそこから大幅に逸れるようなことをあえてしなかったのかもしれません。でも、全体的なデザインとしてそれでいいとしても、この戦略にはいくつか落とし穴があるように思いました。

全体的に満足のいくサウンド

QC 35とQC 35IIに不満があるとしたら、それはイコライザ機能がなかったことでした。そして、新しくなったQC 45にもイコライザ機能はついていません。他のメーカーはヘッドホンにしろスピーカーにしろイコライザをつけるのが定着しつつあるのに、なぜBoseはつけなかったんでしょう? ちなみにBose NC 700にはイコライザがついてるんですよね。QC 45とBose 700のどちらも同じ「Bose Musicアプリ」に接続するのに、なぜQC 45にはつけなかったのか、謎です。

それでもBose特有のサウンドがお好きなら、イコライザがついてなくても特段困ることはないでしょう。Boseサウンドが好きか好きじゃないかっていうのは、けっこう意見が分かれるところなんですがね。

Boseの音は「明るい」と言われるものの、低音が弱めで高音が時にキンキンしてしまうことも。そういうところも含めて、Boseの音が好みかどうかは意見が分かれます。

Boseの「QuietComfort 45」に革命は起こせない。でも、そこがいいのかも

たとえば、Mitskiの新曲「Working for the Knife」をQC 45とソニーのWH-1000XM4の両方で試聴してみたんですが、Boseのほうだとちょっと音がうつろでフラットに聞こえたか? はい。ではソニーよりも圧倒的に悪かったか? いいえ。

同様に、BoseとソニーでExoのディスコグラフィーを網羅してみたんですが、確かにベースが際立つ曲を聴いているときはソニーのWH-1000XM4のほうが臨場感ありましたし、音に豊かな広がりを感じました。パンチが効いてる「Electric Kiss」なんかはQC 45だと超フラットに聴こえてしまいました。

でも正直な話、ほとんどの曲は大差なかったんですよ。オーディオフェチな人はBoseサウンドを敬遠する傾向にあるって言われますけど、一般の人からしてみたらBose QC 45で無問題です。ただし、もしイコライザ機能がついていたならば、もっとよくなっていたでしょうけどね。

ノイキャン機能は相変わらず最高

Boseはオーディオクオリティに関しては業界トップではないかもしれません。でも、ノイズキャンセリングに関しては驚くべき技術を持っています。もちろん、QC 45もその系譜を引き継いでいます。

我が家のめちゃくちゃうるさい洗濯機と乾燥機も、Bose QC 45を前にしては一瞬にして静かになります。エアコンや冷蔵庫の運転音もたちまち消えます。どんなにすばらしいノイキャン機能を備えたヘッドホンでさえ夫のZoomミーティングやエサをねだる猫の鳴き声を完全に遮断できるとは思いませんけど、音楽も鳴らしちゃえばかなりの音は完全にブロックできます。ノイキャン機能においてはQC 45もWH-1000XM4も同レベルでした。Bose NC 700のほうがもしかしたらちょっとだけ優位かもしれませんけど、ほんとに微々たる差です。

シンプル。だが、いかんせんシンプルすぎる

というのも、BoseはQC 45に関してはここでもシンプルさを優先していると思うんですよね。ノイキャンモードとAwareモード、どちらかの設定にしか調整できませんし。しかも、ノイキャンを完全にオフにすることはできないので、Awareモードをオンにするかオフにするかの選択肢しかありません。

その点、Bose NC 700だとノイズキャンセリングのレベルを10段階で調整できますし、レベル0→レベル5→レベル10を行ったり来たりするボタンもあります。ソニーのWH-1000XM4だとしゃべり始めたとたんに自動でAwareモードに切り替わる仕様になっていますが、QC 45ではいちいち手動で切り替えなければなりません。もちろん、シンプルがお好みなら、QC 45でいいんでしょうけど。

バッテリー長持ちで急速充電にも対応

バッテリーライフは長くなり、最大24時間の連続再生が可能になりました。

実際テストしてみたところでは、毎日2、3時間使っても一週間以上持ちました。15分のチャージでおよそ3時間再生できるとの触れ込みでしたが、実際に15分間のチャージでバッテリーライフが10%から50%にまで回復しました。

有線接続していないかぎりはチャージしながら音楽を再生できないので、ここ大事ですね。Bose NC 700は連続再生時間が最大20時間なので、それよりも優秀。ただ、ソニーWH-1000XM4の最大30時間には及びません。

接続にひとクセあり

ただ、ちょっと弱いところもいくつかありました。

一番気に障ったのは、複数のデバイスに同時に接続しているときに、音を鳴らしているデバイスに必ずしも自動的に切り替わってくれなかったこと。

たとえばデスクトップパソコンで映画を観ながら別のデバイスで音楽再生を試みても、自動的には切り替わってくれないので、まず映画を停止してから音楽を再生する手間がかかりました。ただし、パソコンで音楽を聴いている最中に電話がかかってきたら自動的に通話に切り替わってくれて、通話が終わってから自動で音楽が再生されました。

まあ、これぐらいは許容範囲でしょうか。現時点ではどんなワイヤレスヘッドホンでも同じような結果になるのかもしれません。ただし、本気で勘弁してほしかったのは近距離に置かれた複数のデバイスに同時接続したときにたびたび起こる電波干渉でした。音楽を聴いていてもよく途切れることがあり、数秒後にしか復活しない始末。通話しているときにも同じようなことが起こりました。手動でデバイスの片方をペアリングから外せば問題ないんですが、それではせっかく複数のデバイスにつなげられるのに本末転倒ですよね。

通話中の音はまあまあでした。QC 45では音声の向上のために4つめの外部マイクが新たに取りつけられているだけに、ちょっと残念だったかな。自宅環境で通話している分には問題ありませんでしたが、外出すると風の音が混ざってしまい、相手側に聞き取りにくくなってしまったようでした。

それと、「Bose Musicアプリ」について。とりわけひどいってわけでもないんですが、最初に操作マニュアルをひととおり読んでしまったあとはまったく使い道がありません。

で、Boseかソニー、どっち?

Bose QC 45は「買い」なのか。

330ドル(国内販売価格は3万9,600円)にして、Bose QC 45はお値段相応のパフォーマンスだと思います。ただ、400ドル(国内販売価格は5万3,350円)のBose NC 700の存在がちょっと判断を鈍らせますね。

どちらも使ってみた感想としては、音をカスタマイズできる範囲が広くて、主にデスクワーク用に使うのであれば、NC 700のほうをおすすめします。もっとアクティブに楽しみたいし、同時にちょっと節約したいというのであれば、QC 45をおすすめします。

では、Bose QC 45とソニーのWH-1000XM4のどちらかを選ぶとしたら?

これはちょっと難しい。結局のところは、どちらのサウンドが好みかですね。どちらも使ってみて、正直そんなに大差はないと思いました。Boseサウンドが嫌いでなければ、どちらも妥当なチョイスだと思います。

5年前に発売されたQC 35と比べると、QC 45は明らかにグレードアップしています。これまでずっとQC 35を愛用してきて、もうボロボロになっちゃったよ〜という方は、QC 45に買い替え甲斐があると思います。

Bose QC 45も、Bose NC 700も、ソニーのWH-1000XM4もそれぞれ納得のいくプロダクトだと締めくくってしまったら、読者のみなさんはおそらく満足いかないでしょうね。でも、それが真実です。

QC 45は革命的ではないけど、ユーザーの多くはそれを期待していないってことにもBoseは十分気づいているんでしょう。だからこそ、Boseはユーザーの意向に沿う形でQC 45を出してきた。それに尽きると思います。