Development of the spacecraft "Starship" that Elon Musk said "out of common sense"

Development of the spacecraft "Starship" that Elon Musk said "out of common sense"

2月23日(水)8時30分 マイナビニュース

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●打ち上げを阻む「規制」と「技術的な課題」、しかし「プランB」もイーロン・マスク氏の宇宙企業、スペースXが開発中の巨大宇宙船「スターシップ」。火星移民を目指す、現代のノアの船である。これまで高度約10kmまで飛行して着陸する試験が行われたのみだが、打ち上げに使うブースターの「スーパー・ヘヴィ」や、発射と着陸に使う施設などの開発も進み、宇宙へ飛び立つ日が着々と近づいている。2022年2月11日、マスク氏はその開発の最新状況について明らかにした。はたしてスターシップはいつ打ち上げられるのか。そして人類は、いつ火星の大地を踏みしめることになるのだろうか。スターシップとは?スターシップ(Starship)はスペースXが開発中の宇宙船で、マスク氏が構想する、人類の火星への移住を叶える鍵に位置づけられている。マスク氏はかねてより、人類は地球に住み続ける限り、伝染病や小惑星の衝突などによって滅亡する危険があると指摘。だが、もしほかの惑星、天体にも人類が住めるようになれば、たとえ地球が滅びても、人類という種は生き続けることができると主張する。スターシップはそのための、いわば現代のノアの箱舟なのである。この壮大な目標を実現するため、スターシップは全長50m、直径9mと、宇宙船としては桁外れな巨体を誇る。この宇宙船を、全長69m、直径9mのさらに巨大な「スーパー・ヘヴィ(Super Heavy)」ロケットを使って打ち上げる。組み合わせた状態の全長は119m、質量は約5000tにもなり、史上最大のロケットになる。これにより約100人の乗客、もしくは約100〜150tの物資を地球周回軌道へ打ち上げることができ、打ち上げ能力の点でも史上最大となる。また、人や物資を載せたスターシップを先に打ち上げ、あとから推進剤だけを積んだタンカー仕様のスターシップを打ち上げてドッキングさせ、推進剤の補給を受けることで、約100〜150tの物資を載せたまま、月や火星へ飛んでいくこともできる。マスク氏は、40〜100年かけてスターシップを続々と打ち上げ、火星に約100万tの物資を送り込み、人口100万人以上の自立した文明を築くとしている。スターシップ/スーパー・ヘヴィはまた、飛行機のように機体全体を、何回でも再使用できるという特徴ももつ。これにより打ち上げ費用の低減と、打ち上げ頻度の向上を図る。また、ロケットエンジンを動かす推進剤には、液化メタンと液体酸素を使用。高性能が期待でき、再使用にも向いているばかりか、火星で生成できるため“現地調達”できるという利点もある。スペースXは当初、同社の施設があるカリフォルニアやフロリダでスターシップの開発を行っていたが、その後、テキサス州ブラウンズビル近郊ノボカ・チカに「スターベース(Starbase)」と名付けた広大な施設を新設。研究や開発、試験の拠点としているほか、打ち上げ場所としても使うことを見込んでいる。スターシップはこれまでに、タンクやロケットエンジン単体での試験に始まり、「SN(Serial Number)」と名付けられた試作機の開発、試験を実施。高度約10kmまで飛行したのち垂直に着陸する飛行試験を重ねた。着陸に失敗したり、空中で爆発したりといった憂き目にも遭ったが、改良を重ね、2021年5月6日についに完全な成功を収めた。スーパー・ヘヴィも、製造技術の確認などを目的とした試作機を経て、スターシップの試作機を搭載して地球周回軌道へ試験飛行するための試作機が造られている。宇宙への初打ち上げは“年内にも”スターシップをめぐって、最も注目が高いのは「いつ地球周回軌道への試験飛行が行われるのか」ということだろう。2021年9月、初めてスターシップとスーパー・ヘヴィを結合した状態で発射台に設置した際、マスク氏は「数週間以内にも打ち上げたい」という見通しを語っていた。その後、「年内」、「2022年1月」と延びたが、2月になったいまでもまだ飛び上がっていない。マスク氏によると、打ち上げが遅れている理由は主に「規制」と「エンジンの技術的な課題」だという。規制というのは、スターシップの開発、打ち上げ拠点のスターベースがある、テキサス州南部の環境アセスメントが関係している。環境アセスは米国連邦航空局(FAA)などが行っており、主に打ち上げが生態系に与える影響が調査されている。マスク氏によると、「実際のところ、(スターシップの打ち上げは)環境に大きな影響はないでしょう」としたうえで、「もっとも、だからといって、規制の観点から、調査が早く終わるということはありません。なにより、私たちは訴訟社会に生きています」と語った。技術的な課題は、主にスターシップとスーパー・ヘヴィに使うロケットエンジン「ラプターV2」にあり、燃焼室が熱で溶けるという問題が発生しているという。マスク氏は、今回の会見で、初飛行の時期について明言しなかった。FAAによる打ち上げ許可は「早ければ来月には出るかもしれません」する一方で、「基本的には2〜3か月かかるでしょう」とも述べている。またエンジンの問題についても解決までに「2〜3か月」という見通しを示した。一方、環境アセスの調査がこじれるなどし、スターベースからの打ち上げが大幅に遅れる場合に備え、フロリダ州と洋上プラットフォームからの打ち上げに向けた準備も進めているという。スペースXはすでに、フロリダ州のNASAケネディ宇宙センターにある第39A発射施設を借り受けている。現在は同社の主力ロケット「ファルコン9」や「ファルコン・ヘヴィ」の打ち上げを行っているが、将来的にはスターシップの打ち上げ、着陸にも使う予定をしており、そのための施設の建設も始まっている。フロリダ州に関しては環境アセスメントの承認もすでに終わっている。また、石油掘削用のプラットフォームを購入し、洋上の発射台となる「フォボス」と「デイモス」を建造中であることも知られている。ただ、どちらも打ち上げができるようになるまでには時間がかかるとし、「6〜8か月後、早くとも今年中」との見通しを語った。●改良されたロケットエンジンと、“第0段”の役割を果たす発射塔ロケットエンジンはさらに改良マスク氏はまた、スターシップとスーパー・ヘヴィの技術面の進捗についても、少しだけ明らかにした。まず、スターシップとスーパー・ヘヴィの両方に使うロケットエンジンのラプターについては、従来から大幅に発展させた「ラプターV2 (Raptor V2)」を開発。シンプルかつコンパクトな設計となり、1基あたりの推力も185tfから230tfへと向上した。マスク氏はさらに「今年末までには250tfまで高められるだろう」とも語る。ただし、前述のようにラプターV2には燃焼室が溶けるという問題があり、まだ設計は固まっていない。ラプターV2の装着数については、従来はスターシップに6基、スーパー・ヘヴィは29基としていたが、今回の発表ではスターシップには9基、スーパー・ヘヴィには33基装着するとされた。また、スペースXはまもなく、1日あたり1基のラプターV2を生産できる能力に達するとし、最終的には1日あたり最大3基まで増やしたいとしている。打ち上げ能力は従来と変わらず、機体を再使用する場合で地球低軌道に100〜150tとしている。なお細かい点だが、軌道上での推進剤補給について、これまではスターシップの後部同士をドッキングさせて行うことが示されていたが、今回の発表では側面でドッキングするCGが披露された。スターシップやスーパー・ヘヴィの着陸については、少し前から語られていたように、着陸脚で地上に降り立つのではなく、発射塔に取り付けた「チョップスティックス(箸)」と呼ばれる2本のアームを使い、降りてきた機体を挟むようにして捕まえるという仕組みが採用される。また、着陸だけにとどまらず、スターシップとスーパー・ヘヴィの組み立て施設の役割も果たす。まず、降りてきたスーパー・ヘヴィを捕まえたると、そのままアームを動かして発射台の上に設置。その後、降りてくるスターシップも捕まえ、そして先に降りたスーパー・ヘヴィの上に搭載、結合させるのである。これにより、機体から着陸脚やそれを支える構造などが削減でき、軽量化につながるほか、迅速な再打ち上げも可能になる。マスク氏はこの発射塔について「第0段(ステージ・ゼロ)」と呼び、スターシップのシステムによって不可欠かつ重要なものと説明。また「アームで挟んで着陸させるなど、常識外れです」とも語った。打ち上げごとのコストについては、これまで「200万ドルを目指す」とされていたが、今回の発表では「1000万ドル未満、おそらく100万ドル程度」と、幅が広がりつつも、より低い金額が語られた。マスク氏はまた、よく質問される「脱出システム」についても紹介。スペースXの「クルー・ドラゴン」やロシアの「ソユーズ」宇宙船などには、打ち上げ時にロケットが故障した場合に備え、宇宙船のみを脱出させるシステムが搭載されている。一方、スターシップには脱出システムは装備せず、通常の飛行時にも使う9基のラプターV2エンジンだけで、故障したスーパー・ヘヴィから分離、離脱することが可能だという。なお、スターシップが故障する可能性に関しては、「信頼性を飛行機並みにする」ことで解決するという。スターシップのこれからスターシップが地球周回軌道への試験飛行に成功すれば、次はいよいよ実運用となる。マスク氏はまず、運用開始直後は(当然ながら)無人で飛行させるとし、スペースXが構築中の衛星ブロードバンド計画「スターリンク(Starlink)」の打ち上げに使うとしている。スターリンクは現在、ファルコン9で打ち上げられているが、1回の打ち上げあたり最大60機程度しか搭載できない。しかしスターシップであれば、その約10倍は搭載できる。スターリンクの衛星数は最大4万機になるとされるため、より効率よく配備することが可能になる。マスク氏は、スターリンクのサービスで得られた収益を火星移民計画の資金源に充てるともしており、スターリンクと火星移民の両方の実現のために、スターシップは重要となる。また、ゆくゆくは現在運用中のファルコン9やファルコン・ヘヴィを代替することになるという。スターシップはこれらよりはるかに巨大ではあるが、打ち上げコストは大幅に安いため、まさに「大は小を兼ねる」となる。無人での打ち上げで実績を積んだのち、いよいよ本命である有人飛行に移る。現在、スターシップを使った有人飛行は、日本の実業家である前澤友作氏と、彼によって選ばれた数人を乗せ、月を半周して帰ってくる「dearMoon」プロジェクトが計画されている。打ち上げは2023年に予定されている。肝心の有人火星飛行の時期については、今回の会見では明言されなかった。2020年の時点では「2022年には無人のスターシップを火星に送り込みたい。そして2026年、早ければ2024年には人類初の有人火星着陸を行いたい」としていた。また、月着陸船版のスターシップの開発も進んでおり、NASAの有人月探査計画「アルテミス」において、月周回有人拠点「ゲートウェイ」と月面を、宇宙飛行士を乗せて往復することにも使われる。最初の月面着陸は2025年以降に予定されている。もっとも、前述のように初飛行が数か月〜1年ほど遅れることはほぼ間違いないため、これらの予定も遅れることになるかもしれない。さらに、大陸間を極超音速で飛行するP2P輸送システムとしての使用も考えられているほか、米国国防総省では戦場や災害地に迅速に軍隊を送り込むための輸送手段として活用することも検討されている。またマスク氏は、「(スターシップのような)とてつもなく大きなブレイクスルーが起これば、まったく想像もできないような使い道が、たくさん生まれることになるでしょう」と語った。今回の会見は、規制とエンジンの技術的課題に直面しているというやや暗い話があったり、技術面や有人火星飛行の時期など詳細についても言葉少なめだったりと、過去に行われたスターシップ関連の会見に比べると目新しさの少ない内容ではあった。一方で、スターシップやスーパー・ヘヴィの設計が固まりつつあることや、発射施設の建造など、着実に開発が進んでいることも示された点は大きい。はたして、マスク氏の見込みどおり、スターシップは今年中に宇宙へ飛び立つことができるのか。今後もその開発状況から目が離せない。○参考文献・Starship Update - YouTube・SpaceX - Starship・Starship Animation - YouTube・STARSHIP USERS GUIDE Revision 1.0 | March 2020鳥嶋真也とりしましんや著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。この著者の記事一覧はこちら

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