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エンガジェット日本版 WF-1000XM4を隅々までチェック。ようやくAirPods Proと戦える仕上がりに(西田宗千佳)

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発売からちょっと遅れたが、私もソニーのワイヤレスイヤホン「WF-1000XM4」(以下、XM4)を手に入れることができた。そろそろたくさん記事も出回って「もういいじゃん」という感じかもしれないが、本誌編集長・ACCNの「是非に」という要望に応じて、レビューを書いてみたいと思う。

この製品、けっこう面白いです。

徹底した「紙」の新パッケージが潔い

XM4のライバルといえばやっぱり、同じソニーの「WF-1000XM3」(以下、XM3)と、Appleの「AirPods Pro」だと思う。今回はこれら3つの製品を比べて進めていきたいと思う。

XM4の最大の特徴はなにか?

パッケージである。

……と、こう書くと「おい」と総ツッコミを受けそうである。まあ、「最大」というのは言い過ぎだ。

ただ、最初に「ほう」と感心するのがどこか、といえば「パッケージを含めた手触りの変化」であるのは間違いない。

なにしろ、XM4のパッケージ自体がXM3の本体サイズに近い。まあ、そのくらいXM3の充電ボックスが大柄だったということなのだが、XM4は本体サイズの小型化と同時に、パッケージも大胆に小型化された。

この簡素とも思えるパッケージをかなり気に入ってしまった。保証書すら本体を包むバンドに挟む形。本体ケースをバンドで包んでそこに保証書を入れているのは、「その部分だけ変えれば各国対応できる」からだろう。うまい工夫だ。本体の保護カバーも紙製と徹底している。

別に「樹脂素材削減が良い」と称賛するわけではない。それはそれで大切なことだが、紙を大胆に使ってコンパクトかつ見栄えのするパッケージを作った、という点がいい。SDGsだ、と言って美しさや快適さを失うべきではないという主張が見えるようだ。そういう発想は好みである。

そもそも冷静に考えると、「白い四角い箱」に筆者も飽きていたらしい。これならはっきり記憶に残る。正直、XM3のパッケージは記憶が薄い。箱だったのは覚えているのだが……。もちろん、このタイプばかりになるとちょっと寂しく、飽きやすいかもしれないが、環境負荷の低い大豆インクで色付けするなり、エンボスを変えるなり、まだ工夫の余地はたくさんありそうだ。

1点残念なのは、パッケージをとっておこうにも、周囲を止めているバンド(これも紙製)を外すと、パッケージを「箱」として閉められないこと。違うサイズのイヤーピースが下側の箱に入っているのでそのままとっておきたいのだが、上箱をつけておくのが難しい。できれば上箱がはまるようにして欲しかった。イヤーピースの入ったものだけ外してとっておけ、ということなのだろう。

ちっちゃくなって耳への収まりは良好

箱も小さくなったが、本体も小さくなった。というか、XM3が大きすぎた。ようやくAirPods Proと戦える大きさになった、という印象だ。

AirPods Proより良い点は、ケースが自立するところだろうか。まあ、XM4のケースはまだ多少大きいので「立つ」のは当然なのだけれど。とはいえ、机の上で転がらないので、充電もしやすく、使いやすい。

イヤホンのサイズそのものも小さくなった。耳から飛び出す部分が少ないので、XM3やAirPods Proよりも目立ちづらい。

AirPods Proに対するもう一つの利点は、「耳から落ちづらい」ことだろうか。これはXM3と同じだが、XM3の方が、耳の奥までイヤーピースを入れる構造だったのに対し、XM4はイヤーピース自体の摩擦と本体の耳への収まりでそれを実現している印象がある。小さくなったぶん美観も変わったので、その点でXM4を選ぶのはアリかと思う。

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ただ、ちゃんと入れる場所を覚えないと、XM4は耳に収まらない。回して位置を決めるだけだが。ここが不完全だと落ちやすいし、音もしっかりと決まらないのでご注意を。

なお、音や耳への収まりについては、この後言及するイヤーピース変更の影響も大きい。

音質はXM4が圧勝。ただし「空間オーディオ」でAirPods Proが本領発揮

音質については、もう、結論はシンプルに述べてしまっていいだろう。

単純比較ならXM4が間違いなく優れている。

ノイズキャンセル(NC)の効きでいうなら、XM4が明確にトップだ。特に、話し声もキャンセルしておきたい場合、XM4が快適だ。

XM4のNC性能は、機能的に向上したという部分もあるが、イヤーピースがフォームタイプになって耳に密着しやすくなったから、ということと大きく関係している。それは、AirPods Proのイヤーピースをフォームタイプの社外品(例えば、コンプライのAirPods Pro対応版など)に変えると遮音性が高まり、それに伴ってNC性能がXM4に近づくところからもわかる。

ただ、耳への密着感が高まる=摩擦負担が大きくなるということなので、それを嫌う人はいそうだ。AirPods Proは、純正イヤーピースの場合耳への負担がXM3よりもXM4よりも軽い。NC的にはマイナスだが、使い勝手の面ではそういう選択肢もありだと思う。逆に、XM3やXM4はAirPods Proよりも「耳から落ちづらい」という利点がある。

音の質で言うならば、元々XM3もAirPods Proより良かったと思っている。

ただその差は、時に「AirPods Proの方が良い」と言う人も出てくるくらいで、極端な差ではなかった。

だが、XM4とは明確に違う。音の厚みがあって立体感が出て、より自然だ。比べると、AirPods Proは少し平板で、XM3はちょっと良くなり、XM4でかなり改善される。

とはいえ、これは一般的なステレオ楽曲を聞いた時の印象であり、Apple MusicでDolby Atmosの楽曲を聴くとまた変わってくる。そのくらい、空間オーディオは破壊的だ。XM4も360 Reality Audioの楽曲が増えて体験しやすくなれば同様の環境になると思うが、現状、AirPods Proは「Apple MusicをApple製品から使う場合、やっぱりファーストチョイス」という印象になる。

逆にいえば、XM4は「それ以外でのファーストチョイス」である。万能性が高く、AndroidでもiPhoneでもMacでもWindowsでも、良好な音を聞かせてくれる。特にAndroidの場合にはコーデックとしてLDACが使えるので、その分有利、と言える。

音質という意味では「外音取り込み」の質が劇的に改善した点も評価したい。

XM3と AirPods Proを比べた場合、外音取り込み時の音質ではAirPods Proの圧勝だった。だがXM4では改善され、かなり自然になった。この点はキャッチアップと言えるだろう。

Bluetooth切り替えはXM3と同じ仕様、アプリも熟成が進む

最後に、Bluetoothでのデバイス切り替えについても言及しておこう。

ここはXM3との大きな仕様変更がなさそうだ。最後にペアリングしていたデバイスに優先接続するが、別の機器から接続操作をすると、直前に接続していた機器とのペアリングをデバイス側が解除し、新しいデバイスとつないでくれる。この仕様だとなにがうれしいのかといえば、「もう一方のデバイスを操作しなくていい」という点だ。例えばPCやタブレットとスマホを使い分ける際、片方からの操作だけで切り替えができるのがいい。もちろん、複数同時に接続できる方が楽ではあるが、この仕様でも問題はない。

AirPods ProなどApple系のものも似た仕様だが、Apple製品との連動の場合、機器を自動的に切り替えられるというメリットがある。ここも「Apple製品で使うならファーストチョイス」という点につながる。

接続や認識の速度は、XM3よりもXM4の方が速くなっている印象で、使い勝手は上がった。とはいえ、これは周囲の電波状況など、環境によっても異なる部分がある。

アプリからのセットアップ速度が上がった気がするのだが、それはアプリの改善によるものなのか、それともワイヤレス系の改善によるものなのか。提供から時間をかけて改善してきたせいか、ソニーのヘッドホンアプリの使い勝手もだいぶよくなってきた。まあ、導入したばかりの360 Reality Audio関係は、ちょっとこなれていない部分が多いのだけれど。耳の測定は面倒だが、1回はやっておくことをおすすめする。どのイヤホンでもデータの使い回しができる。

どちらにしろ、この辺の仕様は好ましいものなので、継続されて良かった部分。色々なデバイスで使うなら、やはりXM4はおすすめできる製品だ。