ダムの基礎知識 | ものづくり&まちづくり BtoB情報サイト「Tech Note」

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著者:法政大学 デザイン工学部 都市環境デザイン工学科 教授 溝渕 利明

ダムは、地球上のあらゆる生命を育む水を貯水し、人類の近代化を支え、高度経済成長と社会発展に多大な貢献をしてきました。さらに、今後は気候変動や人口増加においても重要な役割を果たしていくこととなります。本連載では、6回にわたりダムの基礎知識について解説します。第1回は、ダムとは何か、どんな構造物なのかを説明します。ダムと呼べるものは、実は国内においては法律で決められており、海外においてもきちんと定義されています。今回は、知っているようで知らないダムの定義とともに、ダムの持つ役割について説明します。また、ダムと呼ばれるものが国内外でどれくらいあるのかについても紹介します。

もくじ

第1回:ダムとは

ダムの定義は、日本国内においては河川法で決められており、また、海外においても基準が決められています。ダムとは何か?  と質問した場合、多くの人たちは「川をせき止めて、水をためるもの」と答えるのではないでしょうか。確かに、ダムは川の水をせき止めて水をためる施設(構造物)であり、ダムによって蓄えられた水(人造湖)を使って飲み水にしたり、発電を行ったりします。また、水を蓄えられる機能を利用して、洪水調節も行います。一方で、水門や河口堰(かこうぜき)などは、ダムとは呼ばれません。川の水をせき止める役割を考えると、堤防や河口などにある可動堰(かどうぜき)も、先ほどの回答からいえばダムということになるのではないでしょうか(図1)。以下からダムの定義、可動堰と水門の違いについて紹介します。

図1:日本最大級の黒部ダム

まず、日本におけるダムの定義を説明します。現在の日本においてダムと呼称される構造物は、1964年(最初の東京オリンピックが開催された年)に制定した河川法により規定されています。そこには、ダムに関する特則(ダムの定義)として「河川の流水を貯留し、または取水するため第二十六条一項の許可を受けて設置するダムで、基礎地盤から堤頂までの高さが15m以上のもの」と記されているのです(河川法 第二章 第三節 第三款の第四十四条第一項)。

つまり、ダムと呼べる構造物は高さが15m以上のものを指すことになります。それよりも低いものは、堰(せき)とし、「流水を制御するために、河川を横断して設けられるダム以外の施設で、堤防の機能を有しないもの」と規定しています(河川管理施設等構造令:1976年制定)。ただし、この法律によるダムの定義は、あくまで日本固有のものです。

また、世界におけるダムとしての基準は、国際大ダム会議(1928年創立)で「堤高5m以上、または貯水容量300万m3以上のもの」をダムと定義しています。これらのことから、堤防はたとえ高さが15mを超えていたとしても、貯留施設ではないため、ダムとはならないことになります。

少し変わったダムとして、天然ダムというのがあります。天然ダムは、集中豪雨などの大雨や地震で発生した土砂崩れによる土砂、火山噴火による溶岩流などが、河川の水の流れをせき止めることで形成されたダムのことです。よくテレビなどで「ビーバーはダム造りの名人」などと紹介されますが、上記の定義に従えば、ビーバーが造ったダムは厳密にはダムと呼んではいけないことになります。

可動堰と水門は、その機能に大きな違いがあります。可動堰は、……

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ダムの役割には、洪水調整、流水の正常な機能維持、水資源の確保(水道用水、農業用水、工業用水など)、発電などがあります。近年、各地で毎年のように洪水被害が起きている一方で、梅雨時というのに雨が降らず、節水や断水などのニュースが報じられることが多くなっています。こういった状態でも私たちの暮らしが成り立つのは、ダムが果たす役割に恩恵を受けていることによります。今、日本からダムをなくしてしまったら、川の近くにはまず住めなくなるでしょう。さらに、断水が続き、農作物などが安定して作れなくなって人々の生活は脅かされるのは間違いないでしょう。

日本は、国土の約7割が山であり、残り3割の平野にほとんどの人が住んでいます。国内の多くの川は、山から海までの距離が数十kmと短めで、さらに流れが急なため、雨が降ってもすぐに海に流れてしまいます。このため、川を途中でせき止めて水をためておく必要があります。また、洪水時には大量の土砂が運ばれ、川底にたまっていきます。そうなると、堤防をもっと高くするか、川底にたまった土砂を取り除かなければなりません。従って、大雨が降った時は途中で一度水をせき止めて、一気に下流に流れないようにする必要があります。以下に、ダムの6つの役割(機能)を説明します。

1:洪水調節機能大雨が降った時に、ダムに水をためて下流に流す量を調節し、鉄砲水(図3)による堤防の決壊などを防ぐ。

2:流水の正常な機能の維持ダムに水をためたり放流したりして、川に流れる水の量を一定に保つ。よって渇水(水不足)の時に川の流量が減って、魚の生存に影響が及ばないようにし、また、川の深さの変化で堤防などが傷まないようにできる。

3:上水道供給機能私たちが普段利用している水(上水道)を、……

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日本国内には、およそ3,000基のダムがあるといわれています。一般社団法人日本ダム協会によれば、表1に示すように、日本のダムは2,753基あり、北海道がそのうちで最も多く187基あります。2番目に多いのが岡山県で、以下、新潟、兵庫、広島と続きます。黒部ダムなどを有している富山県や、日本アルプスを有する長野県などに多くのダムが集中している印象があるのに対し、実際は富山県が77基で13位、長野県が66基で16位となっています。逆に、沖縄県にはダムがないと思われているものの、47基のダムがあり、27位となっています。ダムが最も少ないのは東京都で8基のダム、次いで神奈川県で13基、埼玉県の15基となっています。

表1:日本のダムの数(引用:ダム便覧2020、一般財団法人 日本ダム協会)
順位都道府県合計順位都道府県合計
1北海道18725島根県50
2岡山県16526愛知県48
3新潟県11427沖縄県47
4兵庫県10428群馬県46
5広島県10329静岡県45
6福岡県9730鹿児島県42
7長崎県9731宮城県39
8岐阜県9532栃木県37
9福島県9233熊本県36
10山口県8834青森県34
11三重県8635奈良県33
12大分県8436大阪府32
13富山県7737鳥取県32
14愛媛県7138京都府28
15秋田県6639和歌山県27
16長野県6640福井県26
17香川県6541滋賀県25
18山形県5942徳島県22
19佐賀県5743山梨県20
8岐阜県9532栃木県37
20石川県5544茨城県16
21岩手県5245埼玉県15
22高知県5146神奈川県13
23宮崎県5147東京都8
24千葉県50合計2,753

では、世界にはどれくらいのダムがあるのでしょうか? 正確な数は分からないものの、およそ50,000基あるといわれています(表2~7)。ダムが最も多い国はアメリカで、約9,300基あります。次いで中国の4,700基、インドが4,600基となっており、日本はインドに次ぐ第4位となっています。広大な領土を有するロシアでは、意外と少なく91基となっています。

地域別に見ると、アジアが最も多くのダムを有していて約34,000基、南北アメリカで約14,000基、ヨーロッパが約6,300基、アフリカが約2,600基、中東が約1,800基となっています。ただし、……

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第2回:ダムの歴史

前回は、ダムとは何か、どんな構造物なのかを解説しました。ダムは古くから建設されており、その歴史は約5,000年近くになります。また、ダムの中には3,000年近く供用されているものもあります。日本においては、明確な資料がないものの、飛鳥時代からダムが建設されていたといわれています。そして、ダムは他の構造物に比べて長く使用することができるようになっています。今回は、国内外のダムの歴史を紹介するとともに、ダムの寿命についても説明します。

海外のダムの歴史においては、エジプト文明までさかのぼります。以下に、コシエイシュダム、サド・エル・カファラダム、グコーダム、ナー・エル・アシダムの4つのダムについて紹介します。

コシエイシュダムは、今から約4,900年前の紀元前2,900年頃に、エジプトのメネス王によって建設されました。ダムの歴史上、記録に残っている最古のものとされています。コシエイシュダムは、ナイル川に高さ約15m、堤頂長(ダムの幅)が約450mの石積みのダムで、約20㎞下流の首都メンフィスまで導水したといわれています。メンフィスとは、クフ王のピラミッドで有名なギザ(エジプトの首都カイロ南西部)から20km南、ミート・ラヒーナ近郊に位置する古代都市です。ただし、コシエイシュダムは、現在まで発見されていません。

サド・エル・カファラダムは、遺跡として現存している世界最古のダムで、今から約4,800年前、紀元前2,750年頃のクフ王の時代に造られたと推定されます。堤高11m、堤頂長106mの石積みのダム(使用された石材量が約10万トンといわれている)です。このダムは、ピラミッド建設の際の石切場で働く作業員や家畜に、飲み水を供給していたと考えられています。いずれにしても、約5,000年前にはダムがあったということになります。サド・エル・カファラダムは、発掘調査の結果からダム自体に洪水吐(こうずいばき)を持たなかったことが分かっており、建設後40年で中央部分から河水が越流し、決壊したと推定されています。また、エジプト第12王朝時代のアメンエムハト4世の治世には、干拓により形成された農地に、灌漑(かんがい)用水を供給するためのダムが建設されたという記録が残っています。

この他、四大文明の一つであるメソポタミア文明においては、チグリス川・ユーフラテス川にダムが建設されたという記録が残されています。また、インダス文明でも、インダス川(図1)下流のマシュカイ渓谷というところに約4,000年前のダム遺跡が発見されています。

図1:現在のインダス川(パキスタンのスカルドゥ)

グコーダムは、今から2,200年以上前の紀元前240年頃の中国において、黄河流域のグコー川に堤高30m、堤頂長300mのグコーダムが建設されたという記録が残っています。このダムは、……

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日本のダムの歴史においては、灌漑用のため池が造られたことから始まり、明治時代の後半からは、コンクリートでダムが造られるようになりました。以下に、狭山池ダム、満濃池、本河内高部ダム、布引五本松ダムの4つのダムについて説明します。

狭山池ダムは、大阪府にある現存する日本最古のため池です(図2)。狭山池ダムは、西暦616年に造られたという記録が日本書紀や古事記にあるものの、実際にいつ頃築造されたかは定かではありません。ただし、ため池の中の樋(とい)に使用された木材の年輪年代測定結果から616年と判定されており、この頃の築造で間違いないのではないか、と考えられています。狭山池ダムは、奈良時代の行基(東大寺の大仏造立の責任者)や、鎌倉時代の重源(平重衡による南都焼き討ちで焼失した東大寺大仏殿を復興させた僧)が改修を行っています。

図2:狭山池ダム(引用:大阪府、都市整備部、河川室河川整備課)

満濃池は、四国にある日本最大の灌漑用のため池です(図3)。貯水量は1,540万トンで、704年頃に築造されたと考えられています。818年には大雨で堰(せき)が決壊し、なかなか修復できなかったにもかかわらず、821年に空海がわずか2ヶ月で修復したといわれています。満濃池は、現在でも灌漑用のため池として使用されています。空海は、弘法大師の諡号(しごう:死後に奉る、生前の事績への評価に基づく名)で知られる真言宗の開祖で、平安初期の僧です。若くして学問に秀で、30歳で遣唐使に選ばれて中国に渡っています。この時一緒に中国に渡ったのが、天台宗の開祖で比叡山延暦寺を開いた最澄です。彼らは、仏教だけでなく土木工学や薬学・医学も中国で学んでおり、空海は唐で学んだ最先端の土木技術を用いて満濃池の堰を修復したと思われます。

図3:満濃池

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本河内高部ダムは、長崎市にある日本初の水道用のダムです。1891年(明治24年)に完成した、堤高18.6mのゾーン型アースダムで、……

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ダムの寿命はどれくらいなのでしょうか? ダムは水の貯水施設なので、水がためられなくなればダムの寿命が尽きたことになります。例えば、上流からの土砂の流入による堆砂(たいしゃ)によって、貯水池が埋まってしまえば水がためられなくなり、寿命が尽きたということになるでしょう。また、決壊してしまうとダムとしての機能が果たせなくなるので、これも寿命が尽きたといえます。古代に造られたダムは洪水吐がなかったため、何回か洪水に遭うと決壊してしまっていました。よって、古代のダムはせいぜい数十年くらいの寿命しかなかったと考えられます。ダムに初めて洪水吐が設けられたのは、紀元前750年頃に建設されたマリブダムだといわれています。洪水吐が設けられたことから、ダムの寿命は飛躍的に延びています。

では、ダムにどれくらい堆砂がたまると機能しなくなってしまうのでしょうか。日本のダムの場合、100年分の堆砂量を見込んで造られているので、少なくとも100年間は、機能低下をしないでしょう。しかし、それ以後は、堆砂量が増加していけば機能が低下していくことになります。もし、何の対策もせずにそのまま放置していれば、次第にダムの機能が果たせなくなるでしょう。

もちろん、この堆砂についてはさまざまな対策をしています。例えば、……

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第3回:ダムの種類

前回は、国内外のダムの歴史と、その寿命について説明しました。今回は、ダムの種類を解説します。ダムの区分は多くの場合、使用材料や型式で大別されます。使用材料での区分としては、コンクリートを使用したコンクリートダムや、土や岩、石を用いたフィルダムなどがあります。型式としては、コンクリートダムの場合、重力式、アーチ式、バットレス式などがあります。フィルダムの場合は、アースダム、ロックダム、フェイシングダムがあります。この他、コンクリートダムとフィルダムを組み合わせた複合型(コンバイン)ダムがあります。

コンクリートダムは、以下に挙げる重力式、アーチ式、重力式アーチダム、バットレス式、中空重力式の5つの型式に大別されます。

重力式コンクリートダムは、コンクリートダムの中で最も多く建設されています(図1)。これまでに国内で建設されたコンクリートダムは約1,200基あり、そのうちの約92%がこの型式です。全世界で見ると、ダムの約7割は土や岩を用いたフィルダムであり、残り3割に当たるコンクリートダムの大半は重力式で造られています。その理由は、他の型式のダムに比べて、設計や施工が比較的容易なためです。また、重力式ダムは周囲の岩盤がそれほど強固でなくても建設することが可能であることも大きな理由の1つです。

図1:重力式コンクリートダム「宮ケ瀬ダム」(引用:愛川町観光協会ウェブサイト)

使われるコンクリート配合は、基本的に外部コンクリートと内部コンクリートの2種類あります。重力式ダムの場合、外部コンクリートには、水の侵入や気温の変化などによって傷まないようにするため、強度の高いコンクリートを用います。一方、内部コンクリートは、強さよりも重さを重視したコンクリートになっています。重力式コンクリートダムは、コンクリート自体の重さで水圧に耐えるように設計されています。従って、重力式コンクリートダムの基本形状(断面)は三角形をしています。上流側は、基本的に垂直になっています。水圧は水面からの深さに比例して大きくなるため、ちょうど水圧に抵抗する理想的な形といえます。

アーチダムは、水の圧力を両側の岩盤に伝える構造になっており、重力式に比べてスレンダーな形状をしています。従って、ダムの建設に際しては周囲の岩盤が強固であることが重要となります。アーチダムの形状の中で最も多いのはドーム型と呼ばれるものです。その他にも放物線型や円筒型のものもあります(図2)。使用されるコンクリートの配合は、重力式ダムが2種類を使用するのに対し、アーチダムの場合には基本的に外部コンクリートの1種類です。これは、アーチダムがもともと重力式ダムに比べてスレンダーな構造になっていることによります。

図2:強固な岩盤に囲まれたアーチダム

重力式アーチダムとは、重力式ダムの安定感と、アーチダムの持つスレンダーさを併せ持ったダムです。重力式アーチダムは、国内において戦後の電力不足解消のために建設されました。コンクリート材料などを十分確保することが難しかった時期に、アーチダムを造るほど周囲の岩盤が堅固ではないものの、通常の重力式ダムのような大量のコンクリートの使用を避けられるような立地条件で建設されました。従って、ほとんどが1960年代までに造られています。1970年代後半以降は、コンクリート材料の1つであるセメントが比較的安価に入手できるようになったため、岩盤条件にそれほど左右されない重力式ダムが建設されるようになりました。

国内最古の重力式アーチダムは、……

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フィルダムとは、天然の土砂や岩石を盛り立てて築いた構造物です。ダム建設には、大量の材料が必要です。また、ダムの多くは山の中に造られるため、遠い場所からの材料の運搬に時間とお金がかかります。そこで、身近にある材料である土や岩を用いたフィルダムが多く造られています。基本的に土だけで造ったダムをアースダム、土と砂・砂利、岩で造ったダムをロックフィルダムと呼びます。また、土や岩に加えてアスファルトなどを使用するフェイシングダムがあります。

アースダムは、最も古いダム型式です。国内では、7世紀に造られた狭山池ダム(第2回、図3参照)が最も古いアースダム(ため池)となります。アースダムは、基本的に土を盛って造ることから、ロックフィルダムのようなゾーン型フィルダムに対して均一型フィルダムとも呼ばれます。国内では地震が多いため、堤高が高いアースダムは造られていません。対して、海外では地震が少ない地域に超巨大なアースダムがいくつもあります。世界最大のアースダムは、タジキスタンにあるヌレークダムで、高さが300m、堤体積が5,800万m3です(図4)。

図4:世界最大のアースフィルダム「ヌレークダム」(引用:ヌレークダム、ウィキペディア)

ロックフィルダムは、……

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ダムは、水をためることが目的であるのに対し、砂防ダムは、水ではなく土砂や岩石をためて土石流による土砂災害を防ぐことを目的とされています(図6)。砂防ダムの形は、一般のダムの形によく似ています。ただし、ダムの中央部は両側よりも低く造られ、ダム本体にも大きな穴が開いています。重力式ダムのように、全体の高さを同じにしてしまうと水圧でダムが倒れてしまうため、極力水をためないように中心部を低くした上、水抜きのための穴を造っています。

図6:木材を利用した砂防ダム

また、ダムの下流面の勾配(傾き)が、重力式ダムに比べて急になっています。下流側の勾配が緩やかな場合、ダム放水時に水と同時に流れ出る土砂が当たって削れてしまうため、それを防ぐために勾配を急にしています。砂防ダムは、……

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第4回:ダムの構造

前回は、さまざまなダムの種類を紹介しました。今回は、ダムの構造について解説します。ダムの設計は、転倒しない、滑動しない、水圧で破壊されないという3つの原則に基づいて行われます。また、ダムの型式(フィルダム、コンクリートダム)を選定する条件として、周囲の岩盤の強さや地形が重要になります。建設するダムは、できるだけ少ない堤体積で、貯水量を多く確保できることが理想的です。ダムの建設に使用される材料には、土、土砂、岩石、コンクリート、アスファルト、ゴムなどがあります。

ダムはその完成後、上流側の貯水池から大きな水圧を受けることになります。ダムの設計では、この水圧に耐えられる構造にするための検討が、次に示す三原則を基に行われます(図1)。

図1:ダム構造の三原則

転倒に関する検討とは、水圧によって、ダムがひっくり返ってしまわないようするための検討です。ダムという巨大な構造物が転倒するわけがない、と思われるかもしれません。しかし、水の力というのは非常に巨大で恐ろしいものです。例えば、土石流などでは何十トンもある巨石が濁流に乗って、まるで小石のように移動してしまうのです。また、津波によって、鉄筋コンクリート製の建物や防潮堤である何千トンもの巨大ケーソンが転倒したり、何百トンもある船が海から数キロ離れたところまで運ばれてしまったりもします。従って、ダムに生じると想定される水圧の計算からダムの形状などを決め、転倒しないような構造に設計するのです。

滑動に関する検討とは、ダムが水圧で滑り、動き出してしまわないようにするための検討です。ダムと周囲の岩盤の間にせん断力が生じると、ダム自体が動き出して(滑動して)しまい、その結果壊れてしまいます。このため、ダムが動き出さないようにその形状を決め、……

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ダム建設場所の選定について、面白い話をある大学教授から聞いたことがあります。その教授いわく、「昔は建設省の○○局にダムの場所を決める達人がいて、ダム建設計画の担当者が予定地付近の地図を持って行くと、しばらく地図を眺めて『ここに造りなさい』と指さし、ダムの建設場所を決めていた」とのことです。

ダムの最大の目的が水をためることであっても、そのためにダム本体を大きくしてしまうと費用もかさみ、建設期間も長くなってしまいます。従って、いかに少ないボリュームでダム本体を建設し、より多くの水を貯水できるかが重要です。そのためには、先ほどの教授の話(事の真偽はいざ知らず)のように、ダム建設場所付近の地図を見て、どこにどれくらいの高さでダムを造ったら、どの領域まで水がたまることになるのかをイメージできる、空間認知能力に長(た)けた人が判断するというのは、あながち間違いではないのかもしれません。その判断にはもちろん、建設場所の地質状況といった情報が必要になります。加えて、その地形が形成された経緯も分かっていれば、ピンポイントで場所を決めることができるかもしれません。

水をためやすい場所が、必ずしもダムを造りやすい場所というわけではありません。日本一の高さを誇る「黒部ダム」の建設場所は、ダム立地に最も適していることが戦前から分かっていたものの、資材の搬入路もなく、膨大な費用がかかるとして建設を断念していました。しかし戦後、関西地域の電力不足解消のため、……

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ダムは、使用される主要材料により名称が分類されます。コンクリートダム、フィルダム、フェイシングダムについて説明します。

コンクリートダムの建設には、大きさ80~150mmの粗骨材(コンクリートを作る際に水、セメントと混ぜ合わせる砂利)が使用されます(図2)。寸法の小さい粗骨材では、セメントと水の量が多くなり、温度ひび割れや乾燥収縮ひび割れを生じさせやすくなる原因となるため、寸法の大きな粗骨材を使用します。また、粗骨材寸法を大きくすることにより、施工可能な範囲で極力セメントと水の量を減らし、モルタルと接する粗骨材自体の表面積を減少させることが可能になります。粗骨材は重量が大きいため、このように粗骨材寸法を大きくして骨材の占める割合を多くすると、ダムコンクリート自体の重量も増加していきます。

図2: ダムコンクリートの打設状況(粗骨材寸法150mmのコンクリートを使用)

フィルダムには、ロックフィルダムやアースフィルダムがあり、天然の材料を組み合わせて造られています。

ロックフィルダムの場合は、ダムの中心部分がコア材と呼ばれる、水を通しにくい粘土質の材料で構築されています(図3)。その際、粘土中の砂分が多いと施工性はよくなる一方、……

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第5回:ダムの施工

前回は、ダム構造の3原則や形式、使用材料などダムの構造について解説しました。今回は、ダムの施工を紹介します。ダムの形状や施工法は、使用する材料によって大きく異なります。コンクリートを使用するコンクリートダム、天然の材料を組み合わせて施工するフィルダム、その他、現地発生材に水とセメントとの混合物で構築するCSG工法についても紹介します。

コンクリートダムの施工には、従来から行われている柱状工法、拡張レア工法およびRCD工法があります。この3つについて解説します。

柱状工法(ブロック施工)は、コンクリートダムの代表的な施工法です。建設するダムを左右岸方向にブロック分けし、さらに上下流に長い場合は、上下流方向もブロックに分けて施工します。近代ダムの施工法を確立したとされる「フーバーダム」(アメリカ)(図1)では、コンクリートブロックの施工を1day1feet(コンクリートを1日1feetずつ打つ)とし、幅と長さは15m以内としています。実際の施工に当てはめると、1リフト(1回で施工するコンクリートの高さ)を2mとした場合、1feetは約30cmなので約7日間で打継ぐ計算になります。つまり、1リフトのコンクリート打込みを約1週間間隔で行い、1ブロックの幅と長さが15mとして施工することが理想的であるということになります。

図1:ブロック施工の「フーバーダム」

1ブロックの幅と長さを15m以上にしてしまうと、セメントの水和熱に伴う温度応力によって、ブロックの間に温度ひび割れが生じる可能性が高くなります。このため、リフトの打継ぎ間隔を1週間程度とすることで、次リフトと1週間前に打ち込まれたリフトとの剛性の差が大きくならず、すぐ下のリフトの拘束による温度によるひび割れの発生も少なくなります。これらは、上述したフーバーダムの建設時に検討を尽くした結果であり、さらにその後のコンクリートダム建設での経験値も踏まえて、現在コンクリートダムで柱状工法を行う場合の規範となっています。また、この柱状工法では、大きな水圧がかかった時にブロック間にずれが生じないよう、ブロックの上下流方向の横継目にせん断キーと呼ばれる凸凹を付けます。

拡張レヤ工法(ECLM工法:Extended Layer Construction Method、面状工法)は、1回に打ち込むリフトを柱状施工よりも薄く(1m以下)し、ジョイントグラウトやパイプクーリングなども行わず、できるだけ継目を設けることなく複数のブロックをまとめて施工するものです(図2)。コンクリートダムの施工では、これまで柱状工法が主流でした。しかし、……

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フィルダムは、土と砂・砂利、岩でできたロックフィルダムと、土だけでできたアースダムの2種類に大別されます。

ロックフィルダムは、堤体内の中心部(コアと呼ばれている部分)に、遮水性の高い粘土質の材料を用います(第4回、図3参照)。コアゾーンは、水を止める重要な働きがあることから、この部分の施工は人の手を介して慎重に行われます。特に、大きな水圧がかかる岩盤と接する部分は、団子状の塊にしたコア材を人力で岩盤に貼り付けるようにして施工していきます。その他の施工の大部分は、造成と同様に重機土工を中心に行われます。さらに、転圧には振動タンピングローラなどを用い、回数もフィルタゾーンやロックゾーンに比べて多く、入念に行われます(図4)。フィルタゾーンの施工は、比較的細粒な岩材料をブルドーザなどで敷均し、転圧ローラで締め固める方法が一般的です。

図4:ロックフィルダムの施工状況「御前山ダム」

ロックゾーンの施工は、1950年代までは硬くて大きな岩(ロック材)を数m~数10mの高所から落下させ、高圧の水で締め固める方法(投石射水工法)が行われていました。1960年代になると、ブルドーザとダンプトラックを用いた転圧が行われるようになり、現在では大型の振動ローラで転圧するのが一般的な施工法となっています。

ロックフィルダムで国内最大となる「徳山ダム」の堤体積は1,370万m3で、コンクリートダムで国内最大の堤体積を誇る「宮ケ瀬ダム」(200万m3)の6倍以上です。さすがに、ダムの堤高はコンクリートダムの方が高いものが多いものの、……

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CSG(Cemented Sand and Gravel)工法は、ダム周辺の河床にある砂礫(砂や石)に対する洗浄や分級、粒度調整などを行わずに、そのままコンクリート材料として使用する新しい工法です。もともとコンクリートは、その構成材料の約70%が骨材からできています。従来のコンクリートダムの場合、使用する骨材の品質確保の観点から定期的に試験が行われ、規格を満たさないものは廃棄されます。しかしながら、近年ではこれまでのように良質な骨材を大量に採取することが難しくなってきたため、CSG工法が開発されました。

製造されたCSG材は、RCD工法のようにブルドーザで撒(ま)き出し、図5のように振動ローラで転圧してダム堤体を構築していきます。CSG工法で築造されたダムの形状は、……

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第6回:これからのダム

前回は、ダムの施工について解説しました。昨今の異常気象によって激甚(げきじん)化する洪水被害に対し、ダムの再生といわれるリニューアル工事が始まっています。また、ダムとダム湖周辺を、観光資源や地域活性化の起爆剤として利用したさまざまな施設や企画、イベントも行われるようになっています。今回は最終回です。ダムの再生やダムの観光資源としての価値など、これからのダムのあり方について紹介していきます。

ダムの再生とは、既存ダムの洪水調整能力強化などの機能向上を目指したリニューアル工事をいいます。近年、異常気象による集中豪雨やゲリラ豪雨などによる河川の氾濫が全国で頻発しており、異常出水による堤防の決壊など、被害も年々増加しています。他方、ダムの洪水調整機能の強化を目的に、利水ダムでの事前放流に対するガイドラインが国土交通省から打ち出されています。しかしながら、今後ますます増加が予想される洪水被害への対策としては、これだけでは不十分です。とはいえ、今から数10年もかけてダムの新設を行う時間的余裕はありません。そこで、既設ダムを有効活用するダムのリニューアル工事が進められています。

ダムの貯水量を増加させる方法としては、ダムの嵩(かさ)上げ工事があります(図1)。ダムの嵩上げとは、既設ダムの下流側に新たにコンクリートなどを積み上げていき、ダムをさらに高くするものです。この嵩上げ工事では、既設ダムと新設する部位の一体性を確保することが重要であるため、経年劣化が想定される既設ダム下流面の表面部分を切削し、新設部分との一体化を図るようにしています。

図1:ダムの嵩上げ工事「新桂沢ダム」(現場にて撮影)

この他、ダムの洪水調整能力を高める工事として、……

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ダムの建設は、地元に大きな経済効果をもたらします。ダム建設のための付け替え道路工事などは、多くの場合、地元の建設会社が行います。ダム本体の工事でも、施工会社は多くの場合JV(共同企業体)となり、ほとんどの場合そこには地元の建設会社が加わっています。ダム本体工事の費用は、数100億円になる場合があり、地元の建設会社にとって大きな収益になります。しかし、これらはダム建設中の経済効果に限られるため、ダム完成後にはダムを中心とした観光事業などを考えていく必要があります。

ダムが完成することによって、上流側には水を満々と湛(たた)えた湖ができます。ダム周辺の四季折々の風景は、観光ガイドに掲載されるほどです(図2)。全国各地にあるこのようなダム湖は、絶好の観光資源といえます。実際、ダムの建設によってできる人造湖には観光名所となっているところが多く、またほとんどの場合、湖にはその地域に由来する名前が付けられているので、過疎化が進む地域を活性化する起爆剤となっているケースも見られます。ダム湖の周辺には、観光資源となるキャンプ場やホテル、さらにスポーツ施設やアスレチックなどのリクリエーションが楽しめる総合運動場のような施設が造られることもあります。ダムの管理施設自体がダムやその地域の資料館になっていたり、ダムカード(ダムを訪問した観光客などに配布されるカード)がもらえる施設になっていることもあります。ダム周辺でしか食べられない御当地ダムカレーなどの商品も、全国各地で評判になっています。

図2:秋の黒部峡谷、新山彦橋とトロッコ電車

最近では、ダム施設を体感できるツアーも登場しています。例えば、ダムの中の監査廊を見学したり、……

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ダムは、人々への生活用水の供給や発電、灌漑(かんがい)のための農業用水や製造のための工業用水の供給、大雨による川の氾濫抑制のための洪水調整など、私たちの生活に欠かせないものを提供している施設です。一方で、ダム建設のためにダム湖に水没してしまう地域の住民の移住など、生活基盤そのものの変更を強いることや、ダム建設に伴う予定地内での希少動植物への影響、原石山や堤体掘削、残土の土捨て場など、ダム建設工事で周辺の自然を傷つけていることも事実としてあります。

以前は、社会情勢の変化などを顧みず、ダム建設計画ありきで進められた事業もありました。さらに、水余りによるダム不要論や、山の木々たちの保水力を生かした「緑のダム」の意見などにより、100以上のダム事業が中止となっています。他方、近年頻発する集中豪雨による土砂災害や甚大な洪水被害に対して、洪水調整などの治水目的としてのダムが見直されていることも事実です。また、ダム完成後に新たにできたダム湖が環境に順応し、……

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