ドローンが分離&合体!空を飛行し、海を潜行するKDDIの「水空合体ドローン」とは

ドローンが分離&合体!空を飛行し、海を潜行するKDDIの「水空合体ドローン」とは

空撮や物資の運搬、災害現場の確認などさまざまな場所で活躍しているドローン。だが、その場所は空だけではない。

こちらは「水空合体ドローン」。空中を飛行するドローンと水中を航行するドローンを一体化したもので、船のメンテナンスや海上にある施設の監視・点検をこれまで以上に安全・便利に行うことができる新たなシステムである。

水空合体ドローンは、モバイルネットワークの電波を使い、遠隔操作ができるKDDIの「スマートドローン」のプラットフォームを用いて制御される。

6基のプロペラを持つ空中ドローンがいわば「親機」。下部のケージに「子機」である水中ドローンが格納されている。親機は目的の場所まで飛行して着水し、子機を分離。子機は海中を航行し、海中の映像をリアルタイムにオペレーターに伝える。そして再び親機が子機を回収、目的地を離脱して帰還する。

水空合体ドローンは、KDDIと、プロドローン社、KDDI総合研究所によるプロジェクトだ。2021年6月10日に「ジャパンドローン2021」で発表され、11月17日には遠隔での水中撮影に成功。同年12月14日、横浜・八景島シーパラダイスでデモンストレーションが公開された。

本記事では、「スマートドローン」の仕組みを解説し、水空合体ドローンが今後どのようなジャンルで活躍することができるのか、掘り下げて紹介したい。

水空合体ドローンは、海上にある施設の監視・点検作業を現状よりずっと容易にしてくれる。これまで、船底のメンテナンスや洋上風力発電施設の海中部分の点検、養殖施設の監視など海中の施設の保守は、目的の場所まで船で行き、そこからダイバーが潜るか水中ドローンを航行させて行うのが一般的だった。

水空合体ドローンは、目的の場所まで空中ドローンが飛行し、ダイバーの代わりに水中ドローンが航行する。しかも、ドローンが撮影する海中の状況を遠隔地から確認できるため、オペレーターは現地に行く必要すらない。費用、作業効率、ダイバーの安全性などの面で大幅な改善が期待できるのだ。

KDDIは2016年よりスマートドローンの開発を進めてきた。スマートドローンは、機体を見ながら操縦する従来のドローンとは違い、遠隔地からモバイル通信ネットワークを用いた独自の運航管理システムで、ドローンを目視する必要なく操縦できる。

ドローン運航アプリのマップ上に設定したコースどおりにドローンは自律飛行する。万が一の際には遠隔から手動で制御することも可能だ。

水空合体ドローンは目的地まで自律飛行した後に着水し、子機である水中ドローンを自動的に分離。水中ドローンは海上に浮かぶ空中ドローンとつながったケーブルを通じてコントロールされる。

①飛行中の水空合体ドローン ②着水してプロペラを停止 ③海中でケージが開き水中ドローンを分離 ④水中ドローンを操縦するコントローラ

水中ドローンのカメラが水中の様子を撮影し、通信ケーブルを通じて、海上の親機からリアルタイムに陸上へと配信される。

また、通信ケーブルは水中ドローンの命綱にもなっていて、ウインチで巻き上げることで元のケージに帰還する。

水空合体ドローンには、音響測位装置が搭載されている。これにより子機の水中での位置を特定し、親機を通じてマップに表示することができるのだ。

陸上で位置情報を特定するGPSの信号は、海中には届かない。そのため、水中ドローンの操縦は目視に頼るほかなかった。だが今回、KDDI総合研究所は、水中ドローンの発する音を海上の空中ドローンが受信する超小型の音響測位装置を開発。

ドローンが分離&合体!空を飛行し、海を潜行するKDDIの「水空合体ドローン」とは

GPSで特定した親機の位置情報と水中の子機の位置情報を合成することで水中ドローンの位置を特定、陸上からも確認できるようになった。

水中ドローンの位置特定は非常に重要だ。海中の透明度によっては、カメラからの映像だけでの操縦は困難で、監視対象とドローンの位置関係が不明になることもしばしばあった。だが、水中ドローンの位置を特定できれば、操縦もより安全になる。

そんな水空合体ドローンの全容をまとめた動画がこちらだ。

スマートドローンに6年前から取り組み、水空合体ドローンの企画開発を行うKDDIドローン事業推進グループの松木友明に、企画の背景と通信会社がドローンに取り組む理由について聞いた。

KDDI事業創造本部 ビジネス開発部 ドローン事業推進グループ 松木友明

「通信会社であるKDDIがスマートドローンに取り組むのは、モバイル通信と組み合わせことで、日常生活を支えるインフラとして多様な分野で活躍できるからです。

ドローンにモバイル通信を組み合わせれば、安全に長距離飛行を遠隔制御できます。目視での操縦の必要がなく、全国どこからでもドローンに飛行指示ができて、その映像を見ることができるのです。

物流から災害時の捜索、インフラのメンテナンスまで、人が直接その場所まで動くことなく自動で行えるようになりました。水空合体ドローンでは、その領域を水中にも広げていきたいと考えています。

KDDIはインターネットや国際的なスポーツイベントなどの国際通信を担う光海底ケーブルの敷設とメンテナンスを長年行ってきました。そうしたノウハウのなかから、水中ドローンの映像を水上の親機から4G LTEで陸上に送るというアイデアが生まれました。

スマートドローンによる自動的な点検や監視は、すでに事業化しています。水空合体ドローンも、海に関わるみなさんのお役に立てるよう開発を進めています」

世界初となる水空合体ドローンの機体を開発したのが、プロドローン社。同社の菅木紀代一さんに、ドローンによる海中監視の需要や開発のポイントなどを聞いた。

水空合体ドローンの機体開発を担当したプロドローン社 副社長 菅木紀代一さん

「以前より水産試験場からの要請で、ドローンによる、海中の昆布や藻の生育状態や、ニシンやホッケの産卵場所の調査を行ってきました。

すでに着水型ドローンは海洋植物、海水の調査研究に使用されつつあり、今後、ブルーカーボン(海中の二酸化炭素削減)の分野でも調査機材として活躍が期待できます。いま、海中のさまざまな監視・点検におけるドローンの需要は確実に高まっています。

こうした調査は、着水する空中ドローンの機体下部にカメラを搭載して行います。機体の底にカメラを固定した機種もあれば、ケーブルでカメラを水深5mまで下ろせる機種もあり、水空合体ドローンは後者の進化形といえるのですが、最大の違いは、水中の子機に動力がある点。海上の親機が引っ張られてしまうのです。また海が荒れている場合、親機があおられて逆に子機の航行に影響が出る。

そこで親機を海上に浮かべるフロートの位置に工夫をすることで、海流や高波に対してもある程度位置をキープできるようにしました。また今後は親機にスクリューを搭載し、波風に合わせて作動させることで位置を保持することも検討しています」

音響測位技術を用いて水中ドローンの位置を特定できるようにしたのが、KDDI総合研究所だ。この技術を担当したKDDI総合研究所の川田亮一に、水中での位置特定の重要性を聞いた。

KDDI総合研究所 イノベーションセンター イノベーション協創グループ 研究マネージャー 川田亮一

「海中で音を使って位置を特定するという音響測位技術は既存のものです。たとえば海底探査ロボットに搭載した音響発生装置からの信号を、船の底に装着した音響受信装置でキャッチしてロボットの位置を捕捉するのですが、装置自体が巨大だったんです。

KDDIの海底ケーブル調査用ロボット

今回、世界最小クラスの装置の開発に成功しました。これはひとえにKDDIの海底ケーブル調査用ロボット技術の蓄積があったからです。

水空合体ドローンに搭載された音響測位装置。左の水中ドローンが発する音を右の空中ドローンが受信する

今後は水中ドローンの操縦がより容易になるのはもちろん、作業の工程で水中の座標を共有することができるようになります。たとえば船底の点検などの場合、事前に水中ドローンで問題のある箇所の有無を探し、その後ダイバーが潜って修繕するのですが、音響測位ができれば、両者で座標を共有して修繕箇所をピンポイントで特定できます。

また、ケーブルを廃して、より自由に水中ドローンを操縦できる研究も進めています。水中では通じない電波のかわりに、青色LEDの光を親機から発して水中ドローンをコントロールするのです。これが実現すれば水中での航行の自由度もグッと上がるでしょう」

遠隔操作や自律飛行で、より長距離をより安全に運航し、離れたところにいる人々の生活をつなぎ、日常をより便利にしてくれるスマートドローン。KDDIもプロドローン社もKDDI総合研究所も、さらなる進化を目指して研究開発に余念がない。

「今回デモンストレーションをした水空合体ドローンは、まだ実証用機体であり、海流が早く波の高い海域などでの本格的な運用はまだできません。今後、実海域での実証を重ね、見つかった課題にいち早く対応していくことで、どこよりも早く商用化を実現していきます」(KDDI 松木)

水空合体ドローンは今年度中の実用化を目指している。

スマートドローンは今後さらに進化し、遠隔地からより安全に監視や探査を行い、これまで届かなかった山間部や離島への物流を本格的に支援していく。これからもKDDIは、社会や生活のさまざまな課題を解決するために、通信テクノロジーを活用していく。