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11/03/2022
CES 2022が開幕。筆者は新型コロナウィルスの影響もあり、今年も日本からのリモート参加となった。そうした中でも、現地ではリアルとネットを組み合わせたハイブリッドに各企業は苦心している。
プレスデーで最も注目されたのはソニーグループ(以下ソニー)。既報の通り家電メーカーとしては初めて、EV(電気自動車)産業への参入に向け本格的な検討へと入り、今年春までに「ソニーモビリティ株式会社」を設立すると発表したからだ
EVへの参入準備を本格的に始めたニュースはソニーの株価を引き上げる効果をもたらしたが、現地で吉田憲一郎ソニー社長兼CEOが訴求していたのは、”ソニーの持つ技術やノウハウを活かせる領域を拡大する”という、トップ就任以来の取り組みに成果が上がってきていることだ。
このことを吉田社長はこれまで「パーパス(存在意義)」という言葉で表現してきた。ソニー自身は「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」ことだと定義している。
解釈にもよるが、ソニーが築いてきた技術やノウハウの”使い途”を広げて、社会への貢献、存在意義を見つめ直すこととも言えるだろう。ソニーはハードウェア製品を直接販売することで成長した企業だが、今日的にはそれ以外の領域も多い。ソニーが存在感を示せる領域を、より広い視野で見つめなおしたのが現在も吉田氏の戦略とも言える。
このように書くと、とても堅い印象を持つだろうが、実はそうでもない。ソニーの業界への貢献の方法、目的そのものが”エンターテインメント”へと向かっているからだ。
新しいエンタメを生み出すソニーの技術
吉田社長がソニーのトップに就任して、最初に取り組んだソニー技術の”パーパス(使途)”は、エンターテインメントを生み出すクリエイターが表現する幅を広げることだった。
技術や製品のひとつひとつは、それ単体で存在し、ラインナップされているものだ。しかしそれらを組み合わせ、適切なパートナー、あるいはグループ会社を通じてクリエイターと結びつくことで新しい表現を生み、新しいエンターテインメントが生まれることでソニー製品の売上にもつながる。
たとえばクリスタルLEDディスプレイは、RGB各色のLEDを整列させ、個別に発光を制御するディスプレイ。みなとみらいの資生堂S/PARKにあるディスプレイは壮観で、コントラストの高さとダイナミックレンジの広さに圧倒されるが、今回のCESでは資生堂S/PARK設置のディスプレイに迫る縦5メートル、横12メートルの巨大ディスプレイを設置した。
このディスプレイ技術を用いてソニー・ピクチャーズのイノベーションスタジオが開発したのが、2年前に披露されていたバーチャルスタジオセットの技術だった。
空間を映像スキャンする技術を用いることでスタジオセットをデータ化。グリーンバックを使わず、高精細かつ広色域、広ダイナミックレンジのCLEDにセットを表示して撮影することが可能になった。
具体的な例としては、アデルが最新アルバム「30」を制作する際にソニーが協力したことに言及していたが、分かりやすいのはPlayStation向けの定番ゲームシリーズであるアンチャーテッドの事例だろう。
映像制作からゲームまで幅広くクリエイターを支援し、連携させる
先にバーチャルスタジオとCLEDの話をしたが、ソニーが差異化を果たしている領域は他にもある。高画質シネマカメラのVENICE 2は、大型の超高感度センサーと使いやすさで映画制作の常識を変えるほど撮影領域を広げた。
ドローン技術のAirPeakも、世界シェアナンバーワンのDJIにシェアで追いつくまでには時間がかかるかもしれないが、プロフェッショナルのクリエイター向けドローンとしては、飛ばせる場所や安定性、周辺デバイスの充実度などが評価されている。
1インチセンサーを搭載するスマートフォン、Xperia PRO-Iは画質とコンパクトさのバランスという面で、映像制作の幅を広げる存在になるだろう。クリエイターの創造力に制約をつけないことこそがソニーの存在価値だと吉田社長は話した。
その直近の事例がアンチャーテッドだった。
アンチャーテッドではバーチャルスタジオの技術を取り入れているだけではなく、映画のクリエイターチームが、当初より没入型の本格ゲームの企画を意識しながら制作。PlayStation 5向けにトップのゲーム開発チームが映画製作陣とアイディアを出し合いながらアンチャーテッドを作り上げた。
これまで映画とゲームを同時に企画、プロモーションすることはあったが、クリエイティブの部分で協業する例は聞いたことがない。
また、PS5に関してはすでにさまざまな成功事例がすでにあるが、このCESで発表されたPSVR2が、新しい可能性を広げるかもしれない。
PSVR2の詳細と、最新のコントローラ、視線追跡技術とその応用例などについては今後、取材をしたいところだが、クリエイターの表現力の幅を広げるという意味で、近年のソニーの路線を踏襲していると言えるだろう。
リアルとバーチャルを繋ぐソニーの技術
スポーツの領域でも娯楽性を高める技術を提供する。
eスポーツの領域でもさまざまな形でサポートを行なっているが、一般的なスポーツのエンターテインメント性を高める取り組みを強化するという。
日本では東京ヤクルトスワローズが選手をサポートするために導入したことで知られる”ホークアイ”について吉田社長は言及した。
ホークアイはウィンブルドンで広く知られるようになった、ボールの軌跡を正確に追いかける技術だが、さらなる開発でプレーヤーの動きや体の使い方までのリアルタイムの追跡できるようになっている。
ホークアイは元々、判定に使うのではなく、さまざまな情報をリアルタイムに計測、分析して観戦者に伝えることでエンターテインメント性を高めるという意図で開発されていた。
ソニーはこの技術をマンチェスターシティとの提携で、新しいスポーツビジネスの可能性を広げようとしている。
新型コロナウィルスの影響で必ずしもスタジアムに集まれない状況もあるが、グローバルに目を向けるとスタジアムから遠く離れたファンに、どのようにしてチームとの連帯感を感じてもらえるかといった問題がこれまでにもあった。
そこでホークアイを用い、ファンとプロスポーツチームの間のエンゲージメントを高めるという。
ネットワークを通じて、バーチャルにサッカーの試合を観戦し、さらには自分自身がピッチの中に立って試合の様子を感じることもできる。つまり物理的なホームスタジアム以外に、ネットワークの中にある仮想的なホームスタジアムを持てるようになるということだ。
VISION-Sで示すソニーの”存在意義”
VISION-Sに関しては、すでに別のコラムで紹介しているが、吉田社長の語るストーリー全体を見渡すと、ソニーが伝えたいことが理解できるだろう。
VISION-Sの核となる要素は、業界トップの実力を持つCMOSイメージセンサーやToFによる空間認識を実現するLiDAR技術でもない。それらは重要なパーツではあるが、本当に価値があるのは複数の要素技術を組み合わせたソリューションだ。
ソニーがVISION-S の中核に据えようとしているのは、aiboやAirpeakで培ったノウハウだ。aiboは空間識別センサーを用いて人を識別し、相手によって対応を変える。その一方で360度カメラなどを駆使して周辺の状況を把握し、自律的に行動する。
安全に高精度のフライトを行えるAirpeakを含め、センサー情報をまとめてアプリケーションとして落とし込む部分にソニーの強みがある。その上、センサーのデバイス技術でもトップだが、自動車メーカーは”安全性”に関して極めてセンシティブで、ソニーだけが特別と主張するのは難しいだろう。
しかし、人の(感覚に)近づくという吉田社長の思いには、別の切り口がある。
カメラなどのセンサーで車中の人の動きや気配を認識し続けていれば、ドライバーの異常に気付いたり、自動運転中の誤動作を防ぐことができるようになるだろう。
ソニーの存在意義とは何なのか。それをどのように伝えるのか。
禅問答のようだが、ソニーは自分自身の価値を見つけられずにいた。それは”自信のなさ”の象徴とも言えるが、各事業領域で”ソニーの製品はいいね”と言われるための空気は醸成されている。
得意のエレキ領域で、CMOSセンサーなど投資ジャンルでの勝ち組が見えて来れば収益は安定してくるだろう。