『メリー・ポピンズ』『グレイテスト・ショーマン』『ウエスト・サイド・ストーリー』…名作で彩られたミュージカル映画史を振り返る!

『メリー・ポピンズ』『グレイテスト・ショーマン』『ウエスト・サイド・ストーリー』…名作で彩られたミュージカル映画史を振り返る!

『ウエスト・サイド・ストーリー』へとつながるミュージカル映画史をひも解く

1957年にブロードウェイ・ミュージカルとして誕生し、1961年に映画化、さらに約60年の時を経て、巨匠スティーヴン・スピルバーグが映画化した『ウエスト・サイド・ストーリー』が公開中。第94回アカデミー賞で、作品賞、監督賞、助演女優賞を含む7部門でノミネートされたことでも話題を呼んでいる。この時代を超えた名作をきっかけに、ミュージカル映画が歩んできた歴史をたどってみよう。【写真を見る】スティーヴン・スピルバーグによるダイナミックな映像に圧倒される『ウエスト・サイド・ストーリー』■『オズの魔法使』や『サウンド・オブ・ミュージック』が生まれたミュージカル映画の黄金期そもそも「ミュージカル」とは、登場人物が劇中で歌う作品のこと。一般的なドラマではセリフで語られる心情を歌に変えて表現し、その歌に合わせて踊ったりすることで“非日常”の世界が繰り広げられる。そんなミュージカル映画の歴史を遡れば、映画がサイレントからトーキー(音が出る映画)になった最初の作品『ジャズ・シンガー』(27)はミュージカルだった。つまり映画は、ミュージカルとして音を観客に届けたのである。この1920年代後半から1950年代までは、ハリウッドではミュージカル映画が大量に製作された。世界恐慌や第二次世界大戦の暗い時代、映画もモノクロからカラーにシフトし、夢を届けるミュージカルは観客に歓迎されたのだ。現在も愛される名作も次々と生まれ、黄金期を築いた。名曲「虹の彼方に」で知られる『オズの魔法使』(39)は少女ドロシーが異世界へトリップする設定で、ミュージカル・ファンタジーの原点となった。また、同作主演のジュディ・ガーランドのほか、フレッド・アステア、ジーン・ケリーといったミュージカル映画専門のスターが誕生。ジーン・ケリーの主演作で筆頭に上がるのは『雨に唄えば』(52)で、主人公の雨の中でのダンスは、映画史に残る名シーンとなった。映画の人気ジャンルとして定着したミュージカルは、1950年代から多様化、大作化も進んでいく。ブロードウェイで人気を集めた舞台の映画化も相次いだ。その代表格が『ウエスト・サイド物語』(61)。それまでは夢と希望にあふれる世界だったミュージカルに、人種差別、恋人たちの悲劇などシリアスなテーマという大胆なチャレンジを試み、見事に成功。アカデミー賞で11部門ノミネート、10部門受賞という快挙を成し遂げた。ヨーロッパでのロケを大々的に行い、「ドレミの歌」「エーデルワイス」など名曲を生んだ『サウンド・オブ・ミュージック』(65)もアカデミー賞作品賞を受賞。そのほかにも、オードリー・ヘプバーンが花売りから一流の淑女に変貌するヒロインを演じた『マイ・フェア・レディ』(64)など、『恋の手ほどき』(58)や『オリバー!』(68)も含めると、1958~68年の11年間で、アカデミー賞ではミュージカル映画が5回も作品賞を受賞。黄金期を超えて“円熟期”の時代となった。しかしこの時期を頂点として、ミュージカル映画の話題作は減少していく。■『白雪姫』に『ダンボ』、『ピノキオ』も!ミュージカル映画の歴史を彩るディズニー作品一方で、ウォルト・ディズニーの作品も、ミュージカル映画の歴史を彩ってきた。世界初の長編アニメーション映画『白雪姫』(37)で、「ハイ・ホー」「いつか王子様が」などキャラクターが歌うシーンがあり、ミュージカルのスタイルをとっていたのだ。そのほかにも『ピノキオ』(40)の「星に願いを」、『ダンボ』(41)の「私の赤ちゃん」、『シンデレラ』(50)の「ビビディ・バビディ・ブー」と、キャラクターが歌うシーンが何か所も収められるのが、ディズニー・アニメーションのスタイルとなり、実写とは違うミュージカル映画の歴史を作ってきた。実写のミュージカル映画でもディズニーは名作を送り出した。『メリー・ポピンズ』(64)だ。ミュージカルの女王といわれたジュリー・アンドリュースを主演に迎え、「チム・チム・チェリー」などの名曲と共に完成。当時、ほかのミュージカル大作が舞台の映画化がメインだったのに対し、この『メリー・ポピンズ』は映画がのちに舞台化されるという逆パターンの作品となった。また、ミュージカルを「音楽映画」という広い解釈で捉えた場合、画期的な作品が『ファンタジア』(40)である。ベートーヴェンやチャイコフスキーなどのクラシック音楽を使い、8編の物語がアニメーションで展開するが、音楽と映像のコラボは究極のミュージカルと言っていい。この『ファンタジア』は、史上初めてステレオサウンドが使われた映画としても知られている。映写用フィルムとは別に、音声を記録したトラックが作られ、劇場で流された。■『美女と野獣』や『アラジン』のディズニー・ルネサンス期~『アナと雪の女王』などの近年のメガヒット作そしてディズニーのミュージカル・アニメーションが、大きな流れを作るきっかけを作ったのが『リトル・マーメイド』(89)。ウォルト・ディズニーが映画化に興味を持っていた「人魚姫」の原作をミュージカルとして描き、「パート・オブ・ユア・ワールド」「アンダー・ザ・シー」などのナンバーと共に完成。本作の成功は、続く『美女と野獣』(91)にも受け継がれる。同作で主人公のベルと、野獣の姿をした王子が古城の広間で踊るシーンは、アニメーションという枠を超えて、ミュージカル作品としても最高峰。アカデミー賞では、アニメーション作品として史上初の作品賞ノミネートを果たした。さらに翌年の『アラジン』(92)でも、「ホール・ニュー・ワールド」など名曲が生まれ、ディズニーのミュージカル・アニメーションの世界は一つのトレンドとなる。その後、『ライオン・キング』(94)のような多様な作品も含め、これらは舞台ミュージカル化もされ、さらに人気をアップさせた。この流れが再び頂点を迎えたのが『アナと雪の女王』(13)で、日本を含めた世界的なメガヒットを記録した同作は、ディズニーのミュージカル・アニメーションが時代を彩ってきたことの象徴となった。■批評&興行的に成功した『シカゴ』から始まる21世紀のミュージカル映画ムーブメントでは実写のミュージカル映画が、復活を見せたのは、いつなのか。1970~90年代は『キャバレー』(72)、『グリース』(78)、『コーラスライン』(85)、『エビータ』(96)など、ミュージカル映画の話題作の出現は、“たまに”という程度。『スター・ウォーズ』(77)以降、ハリウッドはアクション系の大作が活況を呈していたのだ。その流れが変わったのは、21世紀を迎えてから。ブロードウェイの名作ミュージカルをレニー・ゼルウィガーやキャサリン・ゼタ=ジョーンズ、リチャード・ギアらの共演で映画化した『シカゴ』(02)がミュージカル映画として、『オリバー!』(68)以来、実に34年ぶりにアカデミー賞作品賞を受賞。興行的にも成功を収め、ミュージカル映画への注目が高まった。その後、『オペラ座の怪人』(04)も大ヒットを記録。同作はロンドン、ブロードウェイの舞台でもロングランし、日本でも劇団四季の上演によって、メジャーな人気を獲得していた。その結果、映画化されて劇場に多くの観客を集めることになった。2000年に入ってからのミュージカル映画は、このパターンでヒットを記録する作品が多くなり、『マンマ・ミーア!』(08)や『レ・ミゼラブル』(12)がその代表例。特にヒュー・ジャックマンやアン・ハサウェイらの名演も記憶に新しい『レ・ミゼラブル』は1985年、ロンドン、ウエストエンドでの初演以来、名作中の名作として世界各国で上演され続けたことで、映画での特大ヒットにもつながった。■『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』などのオリジナル作品も登場!このようなパターンで特殊なのは、ビッグサイズの女子高生がオーディション番組に挑戦する姿を描いた『ヘアスプレー』(07)で、基は1988年に発表されたジョン・ウォーターズ監督の手掛けた映画がブロードウェイでミュージカル化され、それがミュージカル映画になるという、3段階でのバージョンアップ。このパターンは『プロデューサーズ』(05)などほかにも何作かあり、2000年以降の特色だ。そして舞台からの映画化ではなく、映画オリジナルのミュージカルも、ここ数年、話題作が登場している。アカデミー賞で作品賞など史上最多の14ノミネートを達成し、監督賞、主演女優賞など6部門を受賞した『ラ・ラ・ランド』(16)は、かつてのミュージカル映画黄金期(1940~50年代)の作品にもオマージュを捧げ、なおかつ現代の観客にアピールするせつなくロマンチックな展開で支持を集めた。『グレイテスト・ショーマン』(17)も歌とダンスが観る者に熱くアピールし、心を揺さぶるという“ミュージカルの基本”が、大ヒットへの道筋を開いた。また、厳密にいえばミュージカルではないが、ロックバンド・クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーの半生を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』(18)のように、音楽と共に進行するドラマは、映画の観客を本能的に刺激し、リピーターも生んで大成功を収めているので、ミュージカル、音楽映画のポテンシャルの高さは、近年、改めて証明されている。2021年以降も『イン・ザ・ハイツ』に『ディア・エヴァン・ハンセン』、Netflix映画『tick, tick...BOOM!:チック、チック...ブーン!』、『シラノ』(2月25日公開)などミュージカル映画が次々と公開。今後も気になる作品が待機中だ。■“映像の魔術師”スティーヴン・スピルバーグのキャリアとミュージカル映画の歴史が合体!こうしたミュージカル映画の長い歴史を背負って立つように誕生したのが、スピルバーグの『ウエスト・サイド・ストーリー』である。その設定、および展開自体は、1961年の『ウエスト・サイド物語』、またその基盤となった、1957年にブロードウェイで開幕した舞台版を受け継いでいる。つまりオリジナルに忠実な仕上がりを、スピルバーグは目指した。キーポイントとなるダンスシーンの迫力や、目を見張るようなダイナミックな振付、それらを捉えるカメラワークのすばらしさなど、スピルバーグの映像の魔術師としてのキャリアと、過去のミュージカル映画が究極で合体したような映像に、誰もが息をのむことだろう。ダンスシーンの進化は、ミュージカル映画が沈滞していた時期の『グリース』などに脈々と受け継がれていたことも、よくわかる。さらに、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を原案にした、社会の分断が生む愛の悲劇は、時代を超えて心を揺さぶることを、この『ウエスト・サイド・ストーリー』は証明。境遇の違いが障壁となる男女の愛は『美女と野獣』や『オペラ座の怪人』など、そして人種差別の虚しさや多様性の容認は『ヘアスプレー』や『グレイテスト・ショーマン』…と、過去のエポックになった作品のテーマと鮮やかにシンクロする。こうしてミュージカル映画の歴史と照らし合わせながら観ることで、『ウエスト・サイド・ストーリー』の感動はさらに深く広がり、エンタテインメントとしての興奮と共に、最高の映画体験になることだろう。文/斉藤博昭

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