時間感覚の変容に対するKoji Nakamuraからの提案 | CINRA

時間感覚の変容に対するKoji Nakamuraからの提案 | CINRA

SUPERCAR、NYANTORA、iLL、LAMAなど、これまで様々な名義・形態で作品を発表してきた中村弘二が、初めて「Koji Nakamura」名義で発表するソロ作『Masterpeace』は、文字通り2014年を代表する傑作である。アニメ『交響詩篇エウレカセブン』の監督・京田知己や、脚本家の永津愛子、ふくろうずの内田万理やLEO今井など、親交の深い様々な分野のクリエイターに歌詞を委ね、自身は楽曲制作に集中して作られた本作は、音を聴いても、リズムを聴いても、メロディーを聴いても、言葉を聴いても楽しいし、それらを組み合わせて聴けばもっと楽しい、とにかく自由度の高い作品である。

また、常にBandcampで世界中のコアな音楽を聴き漁っているからこそ作れる、世界的に見ても今最も面白いサウンドが鳴っている作品でもあるし、さらにインタビュー中で語っているように、本作の背景には現代における時間感覚の変容に対する提案があり、その目線はジョン・ケージやブライアン・イーノと同様、音楽というものの概念そのものを見つめたものでもある。そして、こういった様々な要素を含みつつも、やはり本作はあくまでポップミュージックであり、メジャーのレコード会社から堂々と発売されるのだから、これはどう考えてもものすごいことだ。中村弘二がすでに十分な評価を獲得している音楽家であることは言うまでもないが、このタイミングで改めて、最大限のリスペクトを送りたいと思う。

―近年歌もののアルバムとしてはLAMAの作品のリリースが続いていたわけですが、今回ソロ名義での作品を作ろうと思ったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

Nakamura:「ソロ名義でのアルバムを作ってみないか?」ってお話があって、そこからがスタートですね。自分ではどうなるかわかんないけども、お話をもらったので、「作ってみようかな」っていう気になりました。

―紙資料には「集大成的」という言葉もありますが、ナカコーさん自身そういう意識を持って制作に臨んでいたのでしょうか?

Nakamura:まあ、言葉上そうなってますけど、自分が関わる作品は常に過去のものから積み上げてきてるので、どんな作品も自分にとっては集大成でありたいと思います。とはいえ、今回は特別な制約もないので、わりと好きなように作っていいという状態ではありましたけど。

―『Masterpeace』というタイトルも、ある意味「集大成感」を感じさせるタイトルですが、これはどのように決まったのですか?

Nakamura:「ソロ名義で作ってほしい」っていう話の中で、「傑作を作ってほしい」っていう話もあったので、そう言われて最初にやったのが、「Masterpiece」って書いたフォルダを作って、そこにデモをボンボン投げていく作業だったんです。それがそのまま仮タイトルになってたんですけど、英語の綴りが違うのは、ネットで検索すると「Masterpiece」っていうタイトルがちょっと多過ぎたんで、変えようかなって。

時間感覚の変容に対するKoji Nakamuraからの提案 | CINRA

―「傑作を作ってほしい」って、なかなか難しい注文ですよね。

Nakamura:まあ、傑作と言っても人によって全然違うものではあるので、「いいものを作ってよ」とか「頑張って作ってよ」ってイメージで捉えてましたけど。

―おっしゃる通り、傑作の物差しは人によって違いますよね。普遍性なのか、新しさなのか、その人にしか作れないものなのか。ナカコーさんの中では、傑作の基準はどこにあると言えますか?

Nakamura:僕はそのときを象徴しているものが傑作だと思います。その時代その時代に合ったもの、あるいは、そのときを象徴していなくても、後にスタンダードになるような、例えばThe Velvet Undergroundのファーストとか、ああいうものだと思います。

Koji Nakamura

―ちょっと話がずれるかもしれませんが、「THE BEATLESがすべてをやり尽くして、もう新しいものはない」っていう言説があるじゃないですか? あれってどう思いますか?

Nakamura:うーん……そんなことはないです。それを言ってしまうと、現在進行形で生きてる意味がないっていうのと同じなので。テクノロジーの進化もあるし、細かな変化がその後に影響を及ぼすことは今でもいっぱいあります。すべてやり尽くされてはいるんだけど、それはすごい大枠のとこであって、それを打破する方法をその後の人たちはやってきてますよね。他の人も僕も、過去と同じ音は入れてないですし、概念に支配されると何もできなくなるので、「そんなことはない」と僕は思います。

―やっぱりエレクトロニクスの進化は大きいですよね。それによって時代に応じた新しい音が実際に生まれてきたと思うし。

Nakamura:THE BEATLESの頃は8トラックとか、バンド一発録音とかそういう世界で、今は多い人で100トラック以上使う世界でもありますし、過去あるものを聴いてきて今があるので、ごく自然に進化してきてると思います。「電話ってすごく進化したけど、しゃべるっていう点ではオリジナリティーないじゃん」って言ってるのと同じで、電話は常に進化してるし(笑)、音楽も進化していて、これからも進化するってことだと思いますけどね。