必須技術の試験成功「空飛ぶクルマ」実現へ一歩(石田雅彦) - 個人 - Yahoo!ニュース

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 空を自在に飛び回る「クルマ」など、空中移動技術が注目されている。空飛ぶ宅配便やタクシーなど、すでに実証実験段階にあるものも多い。こうした技術に必須なのが、空中での衝突回避だ。今回、政府系の研究機関NEDOが、相対速度100km/hですれ違う試験飛行を有人ヘリと無人機で行い、成功した。

 先日、映画『ブレードランナー』(1982)にレプリカント役で出演した俳優ルトガー・ハウアーが亡くなったが、彼と対決した主人公デッカードが乗っていたのがスピナー(Spinner)なる垂直離着陸空中移動車だ。映画の中のスピナーは、行き交う空飛ぶクルマを巧みに回避しつつ飛行していた。

 こうした空飛ぶクルマの実用化はまだ先のことだが、いわゆるドローン(小型無人航空機)や無人ヘリは農薬散布や災害物資輸送といった特殊な用途の他、宅配便の配送といった汎用面でも次第に実用化されつつある(※1)。

 現在のドローンの多くは有視界の範囲で無線操縦されているが、長距離の移動や橋梁や送電線などの長大なインフラ点検で目視外飛行をする場合もある。だが、安全性を確立した上で、将来的には自律的なロボット航空機として空を飛ぶようになるだろう。

 政府は「空の産業革命」を進めているが、その中の重点課題が小型無人機の安全な利用のための技術開発と環境整備だ。このロードマップによれば、2019年度中には離島や山間部などへの荷物配送システムモデルを構築し、都市部でも実証実験を行うとしている。

 自律的な航空自動操縦は、空飛ぶクルマの実現にとっても重要な技術だ。人を乗せて空を飛ぶクルマを自ら操縦するのは、技術的にも法的にも免許制度の面でも難しく、誰もができるものではない。

 人を乗せた大型ドローンが自律的に飛行するというのが、空飛ぶクルマの現実的な形だ。だが、これを実現するために乗り越えなければならないハードルは多い。

 まず、小型中型ドローンなどの無人航空機には、無人航空機同士、あるいは有人航空機との衝突回避が求められる。

 現状でも無人航空機の使用が増えるにつれ、ヘリコプターなどの有人航空機とのニアミスが起き始めている。国土交通省の資料によれば、2016年に4回、有人航空機と無人航空機のニアミスが起き、その全てで有人航空機側はドクターヘリを含むヘリコプターだった。

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 航空法には、空中を飛ぶ航空機同士が接近した場合の進路優先権や回避行動などについての取り決めがある。無人航空機は、国土交通大臣の許可なく高度150m以上の空域を飛ぶことはできないが、災害物資輸送などの場合、それ以上の高度を飛ぶことはよくあるようだ。

 また、ドクターヘリや災害救助などの緊急時やヘリコプターの離着陸場によっては、無人航空機の空域を飛行する場合もある。航空機のアクシデントは、人命に関わる重大事象につながりかねない。空飛ぶクルマに限らず、無人航空機の実用化には、有人航空機や無人航空機同士の衝突を回避するための技術が必須となるというわけだ。

 略称、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、経済産業省所管の国立研究開発法人だが、ロボット・ドローンの研究開発も進めている。今回、NEDOは、SUBARUや日本無線、日本アビオニクスなどと福島県南相馬市にある広域飛行空域で、有人航空機(ヘリ)と中型の無人航空機(ヤマハ発動機製)を用い、相対速度100km/hでの無人航空機側による自律的な衝突回避飛行に成功したと発表した(※2)。

今回の飛行試験で使われた無人航空機(ヤマハ発動機製Fazer G2):NEDOのリリースより

 この飛行試験は、同空域で2019年7月24日、25日に行われ、速度60km/hの有人航空機が高度100mで、速度40km/hの無人航空機が高度60mでそれぞれ相対して直進した(高度差40m)。無人航空機側には光波と電波のセンサー(全方位レーダー)が備えられ、約5km以内で電波センサーにより有人航空機を探知し、約500m以内に接近した時点で画像探知識別カメラにより視認して右へ旋回し、最接近時には150mの距離を保つことができたという。

衝突回避試験の詳細。無人航空機側に備えられた自律管理装置が衝突の危険性を自動的に判断し、150mの距離を保つように回避行動をし、全方位レーダーにより衝突の危険性がなくなってから元の空路へ復帰した。画像探知識別カメラの画像処理により、接近してくる飛行体が有人ヘリコプターだということを識別し、自律管理装置が接近方向や相対速度などを算出し、衝突を回避しうる経路を自動的に判断した。:NEDOのリリースより

 2017年12月に行われた飛行試験によって、相互の距離は三次元的に150m離れればいいということになったという。ヘリコプターの回転翼によるダウンウォッシュ(吹き下ろしの風力)の影響を受けなくなるのは高度差約50mだったことで、今回の試験ではそれ以下の高度差(今回は高度差40m)にしたそうだ。つまり、高度差が50m以上なら回避行動は必要ないことになる。

 また、2018年12月には、有人航空機側がホバリングして静止した状態のところへ無人航空機が接近し、有人航空機を識別して回避行動を取るという試験も行い、成功させている。こうした相手の画像データ解析には一種のAIを使っているようだ。

 飛行船のような機動性の低い航空機以外は、雲や霧などのある空中という三次元空間を高速度で移動するため、お互いに急接近した場合に視認することは困難だろう。そのため、ストロボ発光などで視認性を上げたりレーダーなどでセンシングする必要がある。また、準天頂衛星システムなどを使った正確な位置情報の取得も重要になりそうだ。

 今後、無人航空機の操縦者への安全意識の啓蒙、教育制度整備なども必要になってくるだろう。また、進路権の整理、有人航空機の予測困難な回避行動をどうするかなどを含めた航法のルール作りが行われていくはずだ。我々は、有人のロボット・ドローンによる空飛ぶクルマに一歩近づいたのだろうか。

※1:単に「航空機」という場合、人が乗って航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船を意味し、「無人航空機」という場合、航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船であって構造上、人が乗ることができないもののうち、遠隔操作または自動操縦により飛行させることができるもの(200g以上)となっている。

※2:事業名「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」、実施期間:2017年度~2021年度の5年間を予定、2019年度予算36億円