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11/03/2022
コロナ禍に端を発した社会環境の変化が新しいパラダイムへの扉を開こうとしています。ここ最近、国内スタートアップにおける幾つかの特徴的な動きがありました。
ピーター・ティール氏の名著「ZERO to ONE(ゼロトゥワン・君はゼロから何を生み出せるか/NHK出版)」に示されている通り、イノベーションの創出がなければ未来はありません。また彼が「ほとんどの人はグローバリゼーションが世界の未来を左右すると思っているけれど、実はテクノロジーの方がはるかに重要だ」と語るように、何もない場所からの価値・体験創出にはテクノロジーの力が必要不可欠です。
昨年5月にNEDO(国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構)がまとめたオープンイノベーション白書(第三版)には、国内におけるイノベーション、共創の状況が示されています。白書ではイノベーション大きく「発明牽引型、普及・発展型、21世紀型」の三類に分けており、インスタントラーメンやウォークマン、発光ダイオードやトヨタ生産方式といった「かつての日本」を支えた発明牽引型のテクノロジー・イノベーションは影を潜め、GAFAMやBATの台頭に見られるような海外勢の新たなイノベーションの創出に苦戦している様子を浮き彫りにしています。
また白書では対GDPにおける国内企業の研究・開発にかける費用や研究者の数、論文・特許数が他国に比較して高い水準にあるとしつつ、スタートアップ創出のエコシステムや、大手企業における取り組みはまだまだ改善の余地があるとしていました。
一方、ここ10年でスタートアップした企業で時価総額1,000億円以上(7月1日時点・マザーズのみ)の企業はメルカリを始めフリー、ビジョナル、弁護士ドットコム、BASE、ウェルスナビ、メドレー、ユーザベース、プレイドなど厚みが増してきています。東証一部への鞍替え上場を果たした企業も少なくありません。エコシステムの成長も着実に進んでおり、冒頭に示した通りシリアル起業家がプロダクト公開前にも関わらず20億円以上の大型調達を果たすケースも出てきています。これらは市場やタイミングもありますが、起業家・投資家の間の信頼関係が成熟してきている証拠とも言えます。
では、大手側はどうでしょうか。ここ数年、大手のイノベーション創出の仕組みとして、外部との協業・共創を狙ったオープンイノベーションの取り組みを採用する企業が徐々に増えてきています。先ほどの白書には8割近くの欧米企業が共創活動を取り入れているのに対し、国内企業も半数ほどが取り組みを開始していると回答しています。ただ、そこに対して割いている人員、予算についても欧米に比較して低い水準に留まっているので、まだ手探りの状態であることは間違いなさそうです。
ZERO to ONEには基礎的な考え方としての「独占」が示されており、将来生み出す価値の重要性を指摘しています。
もちろん大手企業も優秀な経営層が中長期のビジョンを掲げてこの将来価値を目指すわけですが、やはりイノベーションのジレンマ、組織肥大に伴うスピードの鈍化など課題を抱える場面がどうしても出てきてしまいます。そこで役立つのがスタートアップとの共創、というわけです。逆に言えば、スタートアップ側が大きなイノベーションを目指して大手と連携する場合は足元のキャッシュフローではなく、この将来価値を見据えた話をする必要がある、とも言えます。
例えばメルカリは創業からわずか2年後の2015年に売上ゼロの状態でヤマト運輸と業務提携を結ぶのですが、この際、当時の小泉文明さんは交渉の裏側をこのように説明していました。
あれから6年。両社の取り組みはらくらくメルカリ便などとして定着し、また、ヤマトホールディングスの2021年3月期(通期)の連結業績はYoYで6.7%の約1.7兆円、利益は108%伸長の921億円と大きく伸びています。決算資料の総括に「消費行動の変化による『全産業のEC化』に対して最適解を追求」とある通り、当時の協業提案の方向性が間違ってなかったことを示しています。
メルカリの例はスタートアップ側からのアプローチでしたが、中長期の新たな価値創造に向けて大手側も動いています。KDDIが推進する共創プラットフォーム事業「KDDI ∞ Labo」では、大手各社と連携したパートナー連合のネットワークを構築しており、各社の共創の取り組みを「#スタートアップに会いたい!」というリレー形式で公開しています。
この中でリコーはスタートアップとの共創プログラム「TRIBUS(トライバス)」を通じてと新たな社会の選択肢を実装しようというメッセージを伝えています。例えば「次世代太陽電池で作る『充電のない世界』」というテーマでは、独自に開発した太陽電池に関するテクノロジーをアセットに「充電しなくてもよい生活体験」を共に創造できるスタートアップを募集していました。
複数企業が乗り合いになるオープンイノベーションでは特にビジョンやパーパス(存在意義)と時間軸が重要になります。メルカリとヤマトHDのように、テクノロジーによる全産業EC化という大義名分に向かって数年以内に「見える」結果が出せるのがベストケースと言えそうです。
ティール氏は独占的な企業の特徴として「プロプライエタリ・テクノロジー、ネットワーク効果、規模の経済、そしてブランド」とまとめています。中でもプロプライエタリ・テクノロジーは他社と自社を差別化する大きな要因になるものです。例としてGoogleの検索アルゴリズムやPayPalの決済体験が挙げられています。
国内でプロプライエタリ・テクノロジーを共創で実現したひとつのスタートアップがIoTプラットフォームのソラコムです。モバイル通信をクラウド化するというアイデアで、創業わずか3年ながら200億円という破格の価格でKDDIグループ入りしました。そして売却するだけでなく、両社は協業を重ね、そこから3年で8万件しかなかった回線契約数を300万件にまで拡大させています。
ソラコムはグループ入りした当時、プラットフォーマーとして多種多様なキャリアと契約する必要があり、5Gの新規格となるNB-IoTへの取り組みについてまた新たな交渉を必要としていました。当時のインタビューでソラコム代表の玉川憲さんはこう言及しています。
KDDIは、IoTの回線契約数において弱かったわけではありません。当時からテレマティクスを中心に圧倒的な数字を持っていました。しかし、ライフスタイルへ通信を融合させるという将来価値を考えた際、ソラコムの世界的にも例を見ないプロプライエタリ・テクノロジーは必要不可欠だった、というわけです。
先にご紹介した「#スタートアップに会いたい!」というリレー形式のコーナーでも、大手各社は自社で共有できるアセットを紹介しています。例えば第一三共ヘルスケアグループでは、幅広い製剤研究(固形製剤、半固形製剤、液剤等)や開発ノウハウの提供をするとしていますし、日本郵便では日々蓄積されている多種多様なサプライチェーンデータや全国約18万本のポストを活用できるとしています。
これらの公開されているアセットを把握しておけば、ソラコムのように自社だけでブレイクスルーするのに時間がかかる市場を、いち早く攻略できるようになるかもしれません。
(※情報開示:BRIDGEでは一部のコンテンツについてKDDIが運営するMUGENLABO Magazineと連携し、転載掲載を実施しています)
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