ソニーがドローンを作る理由。Airpeakが狙う「撮影」と「レベル4」 - Impress Watch

ソニーがドローンを作る理由。Airpeakが狙う「撮影」と「レベル4」 - Impress Watch

「αのために作ったドローン」 モーターから自社開発、飛行性能に自信

Airpeak S1は、ソニーが開発したプロフェッショナル向けドローンだ。

ドローンにも複数の用途があり、日本では土木検査や土地管理、荷物配送などの「産業向け」と呼ばれるニーズが注目されている。「ジャパンドローン2021」で展示されていたのもこのジャンルが多い。

ソニーが開発したのは、まず「プロフェッショナルが撮影に使う」ことを想定したドローンである。本体下部にはジンバルにつけたソニーの一眼カメラ「α」を搭載し、ダイナミックなアングルで映像を撮影することを狙う。そのため川西氏は、「まずは“αのために作ったドローン”とも言える」と話す。

Airpeak S1 Launch

ただしもちろん、それにとどまるわけではない。産業用途も想定はしており、αの代わりに高精度なLiDARなどの計測機器を搭載することも可能。そのために、他社との連携も想定されており、SDKなどの公開も予定されている。

……と、この辺までは一般論であり、「まあそうでしょうね」というところ。今回はもっと詳細な情報が語られた。

次の図はAirpeakのシステム構成図である。使われているプロセッサーはQualcommのSnapdragon 845。最新とは言えないがかなりパワフルなものだ。それに加え、多数のソニー製センサーの組み合わせで作られている。

Airpeak S1のシステム構成図。メインプロセッサーはSnapdragon 845だが、センサーやその処理系にソニー独自の半導体が多く使われているAirpeak S1のセンサー群とメイン基板。スマホやタブレットに搭載されるサイズに近く、本体と比較するとかなり小さなものだ。

川西氏(以下敬称略):Airpeakは、プロセッサーやパーツの一部こそ他社製ですが、ハードやシステム設計、ソフトウエアなどを含め、本体は自社製です。ジンバルは他社製なのですが、Airpeak向けにカスタマイズしていただいたものです。

ドローンはすでに多数販売されており、「もうコモデティではないか」という声は社内にもありました。ただ、小さなおもちゃのようなものはたくさん売られていても、プロの撮影機材として使えるものは少数の企業の製品に占められています。すなわち、そこには何かがあるのではないか、と。

必要なものは、高い空力性能と安定性、そしてそれを大量に安定して量産できる能力です。ならば、「そこをソニーがやるべきではないか」と考えました。

では、具体的に「高い空力性能と安定性」を実現するには何が必要なのか?

もちろん「すべて」が必要になる。安定飛行の制御にはAIとロボティクスが、周囲の認識や撮影にはセンシングとイメージングが、そして操縦には通信が必要で、それらはソニーが他の領域で手がけているものだ。

制御からセンシングまで、ソニーの技術が結集して作られている。

そして、さらにAirpeakのために開発したのが、オリジナルのモーターとプロペラだ。

Airpeak S1に使われているモーターとプロペラの実物。この機体のために独自設計されたものだ

川西:速く飛ばすにはモーターも速く回転することが大事だ、と思われがちです。しかし、高速回転だけでは機敏な動きは実現できません。「低回転でも回る」ことが重要。そこから回転数を上げてビュッと動く。ゆっくり回しても浮く空力特性が得られるプロペラも重要になります。

加速性能は、ホバリング状態から80km/hまでで3.5秒。機敏な操作からダイナミックな映像が得られます。

ちなみに、スポーツカーの加速性能は、0-100km/hで3秒弱。一般車で5秒程度と言われている。Airpeakならなんとかこれに追従して撮影ができる……と考えることもできる。

安定性も高い。最大耐風性能は20m/sとなっているが、これは人が風に向かって歩くのが困難になるレベルである。

Airpeak S1の性能。最高速度が目を引くが、実は注目は「耐風性能」だ

こうした部分については、JAXAの風洞実験施設を使ったテストも行なわれており、その様子が動画でも公開されている。

JAXAの風洞実験に関するテスト映像

川西氏は「災害対策用にはまだクリティカルな検証が足りないと思うが、その性能は十分に担保したい」と話す。