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11/03/2022
PHOTOGRAPH: JUSTIN KNIGHT/METALENZ
こんな世界を想像してほしい。車載カメラが路面に張った薄氷を事前に発見し、ドライバーに注意を促してくれる。あるいは、スマートフォンのカメラが皮膚に現れた病変を分析し、がんかどうか判断してくれる。そして、アップルの顔認証機能「Face ID」がマスクを装着していても顔を認識してくれる──。次世代レンズを開発しているMetalenzの偏光技術「PolarEyes」は、これらすべてを実現できる可能性を秘めている。完全にフラットなレンズを実現する技術が、スマートフォンのカメラに革新をもたらそうとしているMetalenzが「光メタサーフェス」と呼ばれるモバイル端末向けのフラットなレンズを搭載したカメラシステムを発表したのは、2021年のことだった。このシステムは省スペースでありながら、従来のスマートフォンのカメラを上回るとは言わないまでも同等の画質での撮影ができるという。スマートフォンに搭載されたカメラのほとんどは、レンズを何枚も積み重ねた構造になっている。このため、どうしても分厚くなって「出っ張り」ができる。これに対してMetalenzの技術で使うレンズは、たったの1枚だ。そのレンズのナノ構造が通過する光の向きを変え、センサーに集めることで、従来のカメラと同程度に明るく鮮明な画像を生成する。Metalenzの最高経営責任者(CEO)のロブ・デヴリンによると、この技術は22年第2四半期に製品に搭載される予定だ。Metalenzが22年1月に新たに発表した「PolarEyes」はその第2世代の技術で、23年には電子機器に搭載されるかもしれない。ベースとなる技術は同じだが、ナノ構造が光の偏光情報を保持する点が異なる。スマートフォンに搭載されているような従来のカメラは、この情報を除いた光度と色だけを取得している。取得できるデータが増えれば、スマートフォンの機能の幅が広がるかもしれない。
Metalenzが設計したナノ構造の拡大イメージ
光は電磁波の一種で、波の形で伝播する。光が特定の物体(例えば水晶など)にぶつかると波形が変化し、独特の形で振動し始める。「偏光情報とは、つまり光の向きのことなのです」と、デヴリンは語る。「滑らかな表面、でこぼこした表面、何かの角、特定の分子などに反射してカメラに届いた光は、それぞれ反射した素材や分子、物体によって光の方向が異なります。そうした情報があれば、対比が生まれ、素材が何かを把握できるのです」つまり、こういうことだ。光の波形は、道路脇に張った普通の氷に反射した場合と、薄氷に反射した場合とでは異なる。カメラがこの情報を取得できれば、コンピューターヴィジョンの機械学習アルゴリズムは薄氷と普通の氷の違いを学習することが可能だ。そうすれば、クルマは危険が迫っていることをドライヴァーに前もって通知できるようになる。気づいていないかもしれないが、偏光技術は身近にも存在している。液晶テレビやPC用モニターのパネルには偏光フィルターが使われているし、サングラスの偏光レンズはぎらつきや反射光をカットしたり、特定の波長を分離したりしている。とはいえ、これまで光波の特有の振動をとらえる偏光イメージングは、主に科学や医療の研究でしか用いられてこなかった。こうした研究に取り組んでいるひとりが、メリーランド州立大学ボルティモア・カウンティ校で甲殻類のシャコを研究する視覚生態学者のトム・クローニンである。シャコは偏光を感知できることで知られており、そのおかげで濁った水中でもよく見通せるのだという。クローニンはこの風変わりな生物について、「シャコは偏光を用いて意思疎通したり移動したりしているのです」と語る。偏光イメージングの装置のほとんどは大きくて高価だ。これに対してMetalenzのPolarEyesは、スマートフォンにカメラとして搭載できるほど小型でコスト効率もいい。
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