写真業界 温故知新:第4回:瀧島芳之さん(元キヤノン取締役、元カメラ事業本部長、元ソフト統括-開発本部長) - デジカメ Watch

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市川 :瀧島さんはどんな経緯でキヤノンに入社されたのでしょうか?

瀧島 :キヤノン入社前、私は学習院大学の研究室で助手をやっていました。ある日、学部長から「キヤノンから人材を紹介して欲しいという依頼が内々に来ているけれど、大学を辞めてキヤノンに行く気があるか?」という事を言われました。ちょうどその頃、将来の身の振り方を考えていた時期でしたし、当時の私は電気とカメラを趣味にしていましたので、キヤノンに行けば両方やれて色々できるぞという気持ちもありました。まさに”渡りに船”で、ご縁があったのだと思います。

市川 :大学でのご専門は電気ではなく物理でしたよね?

瀧島 :はい、大学での専門は物理です。物理学の分野で半導体の研究をしていました。

市川 :電気がご趣味というのは?

瀧島 :趣味の電気については小学生や中学生の頃から傾倒していまして、中学校の頃には送信機について自由研究をしたり、兎にも角にも電気漬けの少年でした。

そんな電気漬けの人間が1963年にキヤノンに入ってまず驚かされたのが、当時のカメラというのはメカと光学の世界だったのです。

市川 :まだ電子化される以前のことですから、当然そうなりますね。

瀧島 :そうなのです。まだ「メカと光学でどっちが偉いか?」と争っていた時代で、電気なんて“そっちのけ”で全く相手にされませんでした。

市川 :やはり当時はカメラと言えばメカと光学が花形でしたから、容易に想像できます。もちろん彼らにも屋台骨であるという矜持があったのでしょうね。

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瀧島 :電気回路の図面を試作部門に出しても、抵抗の取り付け角度が書いていないとか、電気的にはどうでもよいことを問題にして「電気屋はいいかげんだ」……というような事をいわれ、私も若気の至りで、売り言葉に買い言葉で突っかかっていました。

市川 :入社されてご自身の電気の経験が活かされる時があったかと思いますが、思い出深いものはありますでしょうか?

瀧島 :メカ屋さんと意地の張り合いみたいな事をやっていたある日、ストロボを同期化・自動化しようという話が僕のところにやってきました。ご存知の通り、ストロボにはガイドナンバー(GN)という指標があります。GNを距離で割って適正露出となる絞り値を算出します。

さらにGNには発光誤差として1絞り分の誤差が許容されていましたので、絞りの設定には「勘」や「慣れ」が必要で、正にプロの熟練の技が必要でした。当時のストロボはまだ専業メーカーが作っていたこともあり、カメラとの連携もありませんでした。ですから「素人ではとてもじゃないが撮影チャンスに間に合わない」ということで、カメラとストロボを連動させようという計画はありましたが、実際には実現にほど遠く、なかなか上手く行かなかった。そんな時に「瀧島が電気をやっていたな」ということで声が掛かりました。

市川 :ストロボの同期化ということは、AE-1の頃でしょうか?

瀧島 :もっと前の、キャッツ・アイ・キヤノネットのストロボ同期システムのお話ですね。

キヤノン広報 新野 :「キャッツ・アイ・キヤノネット」は、「ニューキヤノネットQL17」(1969年7月発売)のことですね。昼も夜もEE撮影でという猫の目のような機能から「キャッツ・アイ・キヤノネット」というキャンペーンを展開したモデルです。難しいガイドナンバーの計算なしにレンズの繰り出しに連動して付属品のスピードライト(キヤノライトD)の光量に対する適正絞り値を自動設定する、全自動のフラッシュオート機構(CATS=Canon Auto Tuning System)が開発され、初採用になりました。CATSはキヤノンのその後のレンズシャッター機の一部や1970年代前半の一眼レフにも使用されています。

ニューキヤノネットQL17(1969年発売)ニューキヤノネットQL17+キヤノライトD「ニューキヤノネットQL17」広告(1969年)

瀧島 :メカ屋さんからすると許容された1絞り分の発光量誤差の扱いが難しかったのだと思いますが、電気屋の僕からすると、発光量の誤差を絞り値に反映させるのは簡単な話で、ストロボ発光時の電圧を測定して絞り値にフィードバックすれば良いのではないか?と提案しました。その案が認められ実際にシステムになり、それが評価されて賞を頂きました。

市川 :それは社内での評価でしょうか?

瀧島 :いえ、社外での評価になります。こちらがその賞状です。

市川 :なるほど、東京商工会議所の賞状ですね。おや、水井さんも名を連ねていらっしゃる。

瀧島 :スピードライトの開発に携わっていた懐かしいメンバーですね。雑誌にも何度かこのキャッツ・アイのシステムを取り上げていただいたり、この賞状のように評価して頂いたことで、開発現場における電気屋の地位が徐々に上がってまいりました。