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11/03/2022
2021年10月下旬発売予定の、キヤノンの業務用ビデオカメラ「XF605」が話題だ。4K60Pの小型軽量で瞳検出や頭部検出を搭載、4K60P/4:2:2/10bit/HDRの映像をSDカードに記録可能。まさしく「こんなのが欲しかった」と言わんばかりの仕様に注目が集まっている。
そこでキヤノンに、XF605の小型軽量を実現できた誕生秘話や新機能搭載にいたった理由について、開発に携わった方々に聞く機会が得られたので紹介しよう。
――キヤノンは、ミラーレスカメラの「EOS」シリーズ、シネマカメラの「CINEMA EOS SYSTEM」、業務用ビデオカメラの「X」シリーズなど多角的なカメラカテゴリから映像制作を支えていますが、その中で業務用ビデオカメラの立ち位置やXF605発売のきっかけを教えてください。
田中氏:
弊社は昨年(2020年)、EOS C300 Mark IIIやEOS C70、EOS R5など多数のカメラ新製品を発売してまいりました。その中でもEOS C70は機動性を特徴として発売をしましたが、ラン&ガン撮影などは業務用ビデオカメラも必要とするエリアであると考えています。業務用ビデオカメラは2010年に発売したXF305を含めて以前から手掛けていまして、2018年にXF705をフラッグシップ機として発売いたしました。そのXF705発売後にいろいろな声を聞かせて頂く中で、もっと小型化してほしいという強い要望を多く頂きました。そこでどれだけ小型化できるか、というチャレンジも踏まえ、今回XF605を企画いたしました。
――キヤノンの業務用ビデオカメラは1本リングのXAシリーズと3本リングのXFシリーズをラインナップしていますが、最近の動向を教えて下さい。
田中氏:
XFシリーズはXF705やXF405、XF400が国内では販売終了となりますが、海外ではXF705の販売を継続しております。ここにXF605が加わりました。XAシリーズは2020年12月、XA55とXA40に「カスタムピクチャー」機能などを提供するファームウェアアップデートをリリースいたしました。XA40はMP4をメインの動画形式とする機種でしたが、XF-AVC記録モードにも対応しました。また、カスタムピクチャー機能はXFシリーズの上位機種のみの機能でしたが、XAシリーズでも展開するなど、業務用ビデオカメラにおいても力を入れています。
――XF605のスペックを見るとフラグシップモデルのXF705とぼほ共通のように見えます。なぜXF605は、フラグシップモデルではないのでしょうか?
田中氏:
XF605は、今ある機能を余すことなく搭載しましたので、フラッグシップ機のように見えるかと思います。しかしXF705は、H.265ベースの次世代フォーマット「XF-HEVC」に対応したビデオカメラとして出させて頂きました。そこはまだ、XF705だけがもつ特徴です。一方で、放送局さまのワークフローがすべてH.265に変わるかと言われると、すべての放送局さまがすぐに4Kに移行するかという話と同じで、そこはまだ移行期もございますので、H.264での4K60Pのご要望も頂いておりました。そのため、XF605はH.264のMXF対応ビデオカメラとして企画いたしました。
――XF605を開発する上でのチャレンジを教えてください。
田中氏:
やはり一番のチャレンジは小型化でした。独立3本リングの4K 4:2:2 10bit 60Pのビデオカメラでこのサイズはなかなか見ないレベルだと思っています。
平井氏:
今お話しにありました小型化というところは、確かにチャレンジでした。小型であるにも関わらず、XF705が搭載していたキー類やXLR端子を2系統、SDIやRemote A/Remote Bなどの端子類もほぼすべて搭載しています。XF705の要素を余すことなく、XF605に押し込みつつ、かつ操作しやすくなっています。
平井氏:
本体のキー類は、単に並べるだけで、できるものではありません。指先で触って分かる突起をボタンにつけたり、キー配置の面にも凹凸をつけて、見なくても操作できるように工夫しています。操作感を損なわない形で、キーや端子をどう配置するかは苦労したところではあります。
平井氏:
小さくできた理由は、大きく分けて3つあります。1つ目が消費電力の低下です。消費電力がXF705よりも下げられましたので、それに合わせて放熱構造を見直しています。冷却ファンの吸気口は前面から吸って背面から出すのですが、XF705の場合は熱を考慮して本体下部にも吸気口を搭載していました。XF605は、DIGIC DV7による消費電力の低減の恩恵で、下部の吸気口を廃止するとともに、2個使っていたファンを1個にすることができています。
2つ目が、ズームロッカーを今回イチから構成を見直して作り替えました。操作キーの操作感はできるだけ損なわずに、いかに内部構造を小さくするかを目指して作り上げています。3つ目がLCDパネルの開き方の変更です。XF705は、左右どちらにも開くことができる反面、上下サンドイッチになる分だけ少し厚くなります。XF605は構造を変更することで高さを抑えることができています。この3つの要素により、小型化が実現できました。
――操作性の面で改善されたことはありますか?
平井氏
重心は本体の中心にありまして、グリップ部分をいかに中心に寄せるかが課題でした。手にとったときの重量感は、単純に本体重量だけで決まるわけではありません。同じ重さでも重心から遠く持つ方が重く、重心に近い位置で持つことにより軽く感じられるようになります。XF605はグリップ部分を寄せるために、先ほど申し上げたズームロッカーの見直しに加え、グリップ部の排熱構造を見直しています。グリップ部分を寄せると、熱源に近づいていきますので排熱構造を見直して、手で持っても熱くならないように考慮しています。
田中氏:
右手のグリップでカメラをもちながら左手で操作できるように、EOS C70で搭載したタッチパネルのダイレクトタッチコントロールをXF605にも踏襲しました。タッチ操作で、色温度やF値、ND系の操作や記録設定系の変更が可能です。当然、メカニカルキーでもすべてできます。AF機能も強化したポイントです。弊社の業務用ビデオカメラとして瞳検出AFを初めて搭載しました。マニュアルでもオートでも、使って頂けるのではないかと思います。
――外部出力のSDIは、XF705と同じ12G SDIですか?
田中氏:
SDIは12Gです。12G-SDIに加え、GENLOCK端子、TIME CODE端子、リモート操作用のRemote A/Remote B端子、Ethernet端子など、業務用に必要な端子は一通り搭載しています。
渡邉氏:
違うSDカードに解像度の違うコンテンツ、例えば4Kと2Kを記録することが可能です。加えて、SDI/HDMI外部出力についてもユーザビリティの向上を実施しています。4K記録中にSDIとHDMIに同じ解像度はもちろん違う解像度がMENUから選択可能としました。SDIから4K、HDMIから2K、もちろんFHDインターレスもMENUから選択が可能です。記録解像度に依存せずにXF605に接続したモニターや外部出力機器に応じて、ユーザーが出力を選択可能となっています。
――機能が盛りだくさんですが、その中でもEOS R3と同じマルチアクセサリーシューや瞳検出の搭載などは特に目玉だと思います。そのあたりの機能採用のポイントを教えてください。
田中氏:
例えば瞳検出などは、少人数でのインタビュー撮影などでは便利な機能であり、ミラーレスカメラだけでなく、業務用カメラにおいても重宝される機能であると思います。このような業務用ビデオカメラにおいてもあった方がいいだろうと思う機能は積極的に搭載していきました。また、XF605では、瞳検出に加え、頭部検出を行うEOS iTR AF Xを搭載しています。これも元は、一眼ミラーレスから来ているものです。頭部検出を使うと、被写体が顔を横にそむけてもAFの追従が可能になります。インタビュー撮影の場合、AFの信頼性という意味では、頭部検出を追加したほうがより安心して使って頂けるのではないかと思います。市場でお客さまから好評だと言われる機能は、積極的に搭載していくようにしています。
――マルチアクセサリーシューの搭載は、どのような使い方が考えられそうですか?
田中氏:
XF605は本体にXLRを2系統搭載していますが、例えばショットガンマイクを付けて、インタビューが2人、または3人収録となったときにXLRが足りない場合があるとのフィードバックがありました。本体にXLR端子を追加してしまうと小型化とのバーターになりますので、従来通り2系統のXLR端子は搭載しつつ、それ以上必要な場合は外付けのXLRアダプターで対応頂ければと考え、新しくEOS R3でも採用した新マルチアクセサリーシューをXF605に搭載いたしました。EOSと同じマルチアクセサリーシューを採用し、アクセサリーを共用できるのはお客様にとってメリットがあると思っています。
――USB-Cにも対応しましたが、具体的にどのようなことが可能になりますか?
田中氏:
お客様にヒアリングしていく中で、特にニュース系や報道系のお客様で即時性のニーズが上がっていることがわかりました。これまでニュースワークフローにおいては、撮影後、本社に戻りインジェストして編集という形であったと思いますが、撮影から配信までのニュースの即時性をどのようにして上げるのかが課題として上がりました。そこで今回、iPhoneアプリ「Content Transfer Mobile」(CTM)を開発し、ビデオカメラで撮影したプロキシ映像をiPhone内にダウンロードできるようにしました。
田中氏:
カメラで撮影した映像をiPhoneに転送する事で、ニュースの即時性を向上しようという考えに基づいて開発したアプリです。カメラ本体で記録した映像をUSB有線接続や無線接続でiPhoneへ転送が可能です。カメラ内コンテンツ表示を選択すると、現在SDカードに入っている映像をiPhoneアプリで一覧にできます。その中から映像を選択して、ダウンロードを実行すると、iPhoneの写真AppやファイルAppに転送できます。報道現場において、スマートフォンはもっともネットワークにつながっているデバイスであり、大手エージェンシー様などは、アプリを独自に社内開発していたりします。そのような報道現場の現状とビデオカメラとの親和性を考えた場合、スマートフォンの中に映像をダウンロードしてしまえば、さまざまなアプリと連携が可能になります。
笠井氏:
通常は、「撮影は撮影」「転送は撮影が止まっているとき」と排他的になると思います。CTMは、カメラ本体で記録しながらでも、隙間で転送できるように工夫しています。
渡邉氏
Wi-FiやUSBでコンテンツ転送している際にもカメラ本体での撮影を継続できたほうがユーザーの使い勝手が向上すると考え、記録しているときでも記録を完了したファイルを選択して転送することが可能となっております。
――これはH.264のオリジナルデータが転送されるのでしょうか?
田中氏:
iPhoneへの転送はオリジナルではなく、プロキシ映像です。オリジナルデータはCTM経由でのFTPで指定したサーバーへ転送可能です。XF605ではデュアルSDカードスロットを搭載しており、メイン映像とプロキシ映像を同時に撮影可能ですので、お客様のワークフローに合わせて選択いただければと思います。また、今回のデュアルSDカードスロットの記録も、バリエーションを増やしています。プロキシ映像の他にも、音声プロキシを新たに追加していまして、メインの映像と音声ファイルの同時収録が可能です。サブタイトルを入れる時や、文字起こしを並行して先へ進めておきたい方のために、音声ファイルを同時に収録しておくことが可能で、音声ファイルもCTMでiPhoneへのダウンロードが可能です。
笠井氏:
以前からカメラにEthernetやUSB-Cを搭載して、FTP転送ができるように、さまざまなチャレンジを行ってきました。しかし、お客様からは「いやそれでは全然足りないんだよね」とご意見をいただいていました。世の中は、4Gや5Gが主流の世界になってきていて、確かに弊社がそこをカメラに組み込む方法もあります。しかし、XF605ではUSB-CでiPhoneに接続して、サーバーへの転送はiPhoneに任せるという切り分けの考え方にたどり着きました。さらにCTMは、転送した後、ファイル管理をうまくやれるようにNews Metadataの同時記録に対応しています。タグの編集をして書き込んだり、逆に吸い出しの機能も今回入れております。
さらにカメラ本体を遠隔で操作したいという要望もありまして、「Browser Remote」を刷新しました。カスタムピクチャーやホワイトバランスなどを遠隔でもコントロールできるようになりました。実際に本体の動きとBrowser Remoteの動きを排他制御しなければいけない部分の開発には苦労しました。
――最後に、商品企画の中田さんと田中さん、開発リーダーの平井さんにXF605のアピールをお願いします。
中田氏:
一度皆さんに実際に持って頂き、触ってほしいというのが率直な思いです。今まで皆さんにご好評を頂いている現行機の機能から、さらにグレードアップした部分、特にサイズ感・重量・操作性については触れていただければすぐにご理解いただけると自信を持っています。ぜひ、まずは触れていただければと思います。
田中氏:
XF605は、小型軽量という特徴に加え、低消費電力も強みです。また、4K 4:2:2 10bit 60P をSDカードという汎用性の高いメディアに記録可能な事も特徴かと思います。さらに、デュアルピクセルCMOS AFなど、キヤノンが持っている技術を活かし、先進の頭部検出や瞳検出などのAF機能を入れていますので、業務用ビデオカメラとしては、使いやすいものに仕上がっていると思います。
平井氏:
今回は、本製品の開発チーフとしてみんなをまとめてきました。スタートの時点では、「こうしたいよね」「ああしたいよね」というのを、みんなで考えつつまとめていきました。競合他社に対しては、大きさや重さで優位性があり、お値段も高くなく、高画質な映像を小型で撮れる製品の実現に向け、一緒に頑張ってくれた関係者に感謝の気持ちでいっぱいです。XF605の良さを活かして、ぜひ皆様、仕事に使って頂きたいと思います。